本研究では、DNA修復を担う光回復酵素と概日リズム形成に関与するクリプトクロムの機能を単一の酵素で成し遂げる二元機能性動物類縁型クリプトクロムに注目し、その光応答分子機構を明らかにすることを目的に研究を行なった。クラミドモナス由来クリプトクロム(CraCRY)の二元機能性がどのように調整されているか調べるため、二電子還元型FADH-の熱力学的および速度論的安定性を評価したところ、DNA修復活性を向上させることが知られている集光アンテナ分子の結合の有無に依存してCraCRYにおけるFADH-の安定性が著しく異なることを明らかにした。 CraCRYによるDNA修復能を評価するため、兵庫県立大学・久保稔教授との共同研究を行ったところ、これまで研究されてきた他の生物種由来の光回復酵素とは異なる機構でDNA修復反応が進行する可能性が示唆された。 また、CraCRYのクリプトクロムとしての構造活性相関を調べるため、CraCRYタンパク質微結晶を用いた時分割シリアルフェムト秒X線結晶構造解析(TR-SFX)実験を行った。その結果、光受容中心であるFADからタンパク質C末端にかけて逐次的に構造変化する様子が観測された。10ナノ秒から数マイクロ秒にかけてFADのN5位近傍に存在するアスパラギンが回転し、それに伴い過渡的にFAD結合部位の近傍の溶媒露出部位が構造変化した。50ミリ秒程度でこの状態が暗状態へと回帰し、それに伴いFADの酸化還元状態が変化することから、この部位における過渡的な構造変化がFADプロトン化に関与することを明らかにした。さらに、測定開始点である10ナノ秒から200ミリ秒にかけてC末端アルファヘリックスが大きく構造変化することがわかった。本結果は現在論文にまとめているところである。
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