研究実績の概要 |
近年、X線自由電子レーザとシリアルフェムト秒X線結晶構造解析(SFX)法の開発により、光駆動タンパク質の時間分解結晶構造が高分解能で得られるようになり、その反応サイクルの全容解明が可能になるつつある。しかし、SFXは空間・時間分解能の限界や結晶状態という制限が課題となっている。 本課題では、高速QM/MM計算と非断熱分子動力学(MD)計算を開発した。QM/MM法は興味ある空間を高精度な量子化学(QM)計算で扱い、生体環境を古典力場(MM)で扱うマルチスケール法である。計算のボトルネックとなる電子励起状態に対するQM計算を並列化し、超並列スパコンを用いることで、高速なQM/MM計算を実現した。また、通常のMD計算では単一の電子状態における分子運動を計算するが、これを多状態へ拡張し、電子励起状態と基底状態の間の非断熱遷移を考慮できる方法を新たに開発した。 具体的には、Yuらが提案した非断熱結合定数を必要としない方法[PCCP 16, 25883 (2014)]をMD計算プログラムGENESISに実装した。また、高い並列性を持つ量子化学計算プログラムQ-SimulateとGENESISを組み合わせることで、高速化を達成した。 応用例として、アゾベンゼンのcis-trans光異性化反応に対するQM/MM計算を実行した。アゾベンゼンは光化学反応のベンチマーク系である。しかし、先行の理論計算では、アゾベンゼン単分子のみを扱い、溶媒分子を考慮していなかった。本研究では、溶媒分子をあらわに扱うことで、アゾベンゼンから溶媒へのエネルギー緩和の動的課程など、これまでにない知見を得られた(論文準備中)。 現在、ロドプシンに対する計算が進行している。さらに、当初予定になかったが、本領域での共同研究として、DNA修復酵素の光電子移動反応に対する研究が立ち上がった。
|