公募研究
運動・感覚疾患、神経・精神疾患は、脳―身体―環境システムの変化に我々が上手く適応できずに障害が生じている状態である。当該疾患を克服するためには、脳に潜在する冗長ネットワークの探索・再動員によるネットワーク構造の再構成、即ち”超適応現象”を適切に誘導する必要がある。一方、もし超適応現象が不適切に生じた場合は例えば幻肢痛のような病態に陥ってしまう可能性がある。しかしながらこれまで超適応現象を適切に誘導する方法は存在しなかった。こうした状況下最近研究代表者らは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)モデル動物において、時間特異的報酬系脳領域刺激による恐怖消去学習の適切な強化にプレリミナリに成功した。そこで本研究では、時間特異的報酬系脳領域刺激がPTSDのみならず他の神経・精神疾患の症状も制御可能か検討することで、超適応現象の適切な誘導法を確立を目的とした。初年度は、神経・精神疾患モデル動物(PTSD、うつ病、てんかん)において、時間特異的な報酬系脳領域刺激(侵襲的脳刺激)による症状制御実験に着手した。さらにヒトへの応用を見据え、新しい非侵襲的脳深部法(経頭蓋超音波刺激法)の開発を開始した。具体的には、まずPSTDモデルラットにおいて、海馬シャープウェーブ・リップル波をトリガーにして報酬系脳領域刺激を行うことで、恐怖記憶の消去を促進可能と見出した。次に、うつ病モデルラットにおいて、嗅球―梨状皮質間ガンマ周波帯カップリングを双方向性に制御することで、当該脳活動パターンが正の気分の維持に関わると明らかにした。さらに、てんかんモデルラットの発作間欠期における大規模脳活動記録から、機械学習アルゴリズムの一種を用いることで、発作感受性を解読・定量する手法を開発した。加えて、自由行動ラットの頭蓋骨に慢性留置可能な小型超音波トランスデューサーを開発した。
2: おおむね順調に進展している
本研究遂行に際して重要な技術的課題である「時間特異的な報酬系脳領域刺激」を既に達成できているため。さらに、当該技術を用いた神経・精神疾患症状の制御あるいは標的脳活動の同定を達成できている。そのため「おおむね順調に進展している」と判断した。
初年度において、PTSDの症状制御を達成した。次年度は、他の神経・精神疾患の症状制御に挑戦する。さらに応用を見据え、新しい非侵襲的な脳深部刺激法の開発も実施する。1. 時間特異的報酬系脳領域刺激による超適応現象の適切な強化法確立に向けてまず海馬電気キンドリングラットの多脳領域にタングステン線記録電極を慢性留置し、発作感受性誘導前後の脳活動を記録する。当該脳活動記録から発作感受性を説明する脳活動パターンを機械学習アルゴリズムを用いてモデル化する。一度モデル化に成功すれば、任意の脳活動から発作感受性を定量可能になる。次に発作感受性脳活動の低下をトリガーにして、報酬系脳領域を脳深部電極を介してオンライン刺激する。このようにして発作感受性のサーボコントロールによるてんかんの制御を達成する。次に、新世代アルツハイマー病モデルマウスにおいて、大脳ガンマ波をトリガーにした報酬系脳領域刺激で、認知機能障害が改善するか検討する。さらに、うつ病モデルラットにおいて、特定脳領域間のガンマコヒーレンスをトリガーにした報酬系脳領域刺激により、うつ病様症状が改善するか検討する。2. 新しい非侵襲的脳深部刺激法の開発次年度は、初年度に作成した小型集束超音波照射装置をラットの頭蓋骨に急性または慢性的に留置し、経頭蓋的に神経活動を修飾可能かどうかその性能を評価する。
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