研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H04767
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉山 陽子 (矢崎陽子) 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任准教授 (00317512)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 臨界期 / 歌学習 / 聴覚 / ソングバード |
研究実績の概要 |
ヒトが発達期に大人の話す言葉を聴き、模倣することで言語を発達させるのと同様、歌を学習するトリ、ソングバードは発達期に親の歌を聴き覚え、これを真似して唄うことで歌を学習する。これまでの研究から終脳にある高次聴覚野であるNCM核に親の歌の聴覚記憶が形成されることが示されてきた(Yanagihara & Yazaki-Sugiyama, 2016; Katic et al, 2022)。また、最近の研究からこの親の歌の記憶に関わるNCM核の神経細胞群が、終脳運動野であり、歌の発声に関わるHVC核に発達期にのみ神経投射をしていることを明らかにした。本年度の研究ではこの投射が歌学習が終わるにつれて消失するタイムラインを明らかにした。これまでの実験で投射が見られた60日齢と投射が消失していた90日齢の間の日齢において、同様に神経活動に依存して蛍光タンパクであるYFPを発現するウィルスベクターをNCM核に注入し、親の歌に反応するNCM核の神経細胞にEYFPを発現させ、そのHVC核への投射を調べた。その結果、70日齢のヒナではまだ多くの投射が見られるが、80日齢のヒナでは投射が少なくなっていることが明らかになった。来年度、この時期に実際に投射の消失が起きるのか確認するため、in vivo imagingの手法の確立と、この消失の神経メカニズム、幼少期の過剰な学習によって消失が抑制されることによる成長後の神経回路機能増大の可能性とそのメカニズムについて検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はタイムラインの確認と、今後の実験の展開に向けて手法の確立を行ったため実験結果としては大きな結果は出ていないが、来年度の研究に向けて着実に準備は進んでおり、また新たな手法の確立も行った。これらは順調に進んでいるため、研究はほぼ計画通りに進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は本年度に確立したin vivo imagingの系を用いて、また本年度の実験から、神経投射が消失する時期が70~80日齢前後と特定されて来ていることにより、この時期に集中してin vivo imagingを行うことでNCM核の神経細胞のHVCへの投射を確認し、さらにこの神経投射が日齢を追ってどの様に変化するのか明らかにする。また、これまでの研究から幼少期に2羽の親から順番に二度歌学習をする、という“特別な”経験に因り成長後にもNCM核からHVC核への神経投射が維持されている、という現象が明らかになっており、幼少期の特別な経験に因る成長後の神経回路の容量の増大、またこれによる機能回復が期待されている。この“特別な”経験は異種であるジュウシマツの親からの歌学習、社会隔離による通常の発達臨界期を超えた時期での歌学習など、幾つかの複合要因が含まれていた。そこで、来年度の研究においてこれらの要因のどれが成長後の神経回路の容量の増大を引き起こすのか明らかにするため、様々な学習条件を設定し、ヒナの飼育を開始しており、これらの動物を用いて今後in vivo imagingの手法を用いて、神経投射がどの様に変化するのか明らかにしていく予定である。
|