研究実績の概要 |
ヒトが発達期に大人の話す言葉を聴き、模倣することで言語を発達させるのと同様、歌を学習するトリ、ソングバードは発達期に親の歌を聴き覚え、これを真似して唄うことで歌を学習する。これまでの研究から終脳にある高次聴覚野であるNCM核に親の歌の聴覚記憶が形成されることが示されてきた(Yanagihara & Yazaki-Sugiyama, 2016; Katic et al, 2022)。また、最近の研究からこの親の歌の記憶に関わるNCM核の神経細胞群が、終脳運動野であり、歌の発声に関わるHVC核に発達期にのみ神経投射をしていることを明らかにした。本年度の研究ではこの投射が歌学習が終わるにつれて消失するタイムラインを明らかにし、さらにこの消失の神経メカニズム、幼少期の過剰な学習によって消失が抑制されることによる成長後の神経回路機能増大の可能性とそのメカニズムについて検討を行った。 これまでの研究から幼少期に2羽の親から順番に二度歌学習をするという経験をした個体では成長後にもNCM核からHVC核への神経投射が維持されていることがみられた。そこで本年度はどの様な幼少期の経験が歌学習に関わるNCM-HVCの神経回路の発達、可塑的な変化を決定するのか明らかにするため、異なる学習経験を得た様々な個体においてHVC核におけるNCM神経投射の量を明らかにした。発達期に二羽の親から順に歌を二度学習すると、その親がジュウシマツの仮親であろうが、キンカチョウであろうが、成長後にもHVC核におけるNCM核からの神経投射は維持されていることが確認された。されに、一度学習をしていると、二度目の学習時には、数時間親の歌を聴くだけでNCM核からHVC核における神経投射が確認されることが見出されてきた。今後さらなる解析が必要であるが、発達初期の経験が発達後期における新たな学習を促進させる可能性を見出した。
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