本研究の目的は超適応の解明に向けた脳状態空間表現を同定するための手法を開発することである.また,開発した手法を用いて特に両側の運動関連領域における低次元空間上でのダイナミクスを調べることで,超適応時の変化を検出することを目指す.この目的のため,昨年度から引き続き,無向グラフを用いた低次元空間同定手法(TVGL-based method)に皮質脳波についての解析を行った. A.無向グラフを用いた低次元空間同定手法に関する検討 本年度は特に皮質脳波を用いた解析を検討した。この解析の結果,低次元空間上において運動前から運動実行時にかけて徐々に変化する傾向が見られた.デルタ帯やシータ帯、アルファ帯においては、安静時から運動時にかけて3次元上で表現した軌道が離れていく様子が確認された一方で、ベータ帯や低ガンマ帯などでは軌道は密に固まるような傾向を示していた.また、高ガンマ帯においてはU字やV字のように軌道が変化すること様子が見られた。他の被験者でのデータを確認すると高ガンマ帯では軌道は円に近い軌道が確認できた。このことから,TVGLを用いた低次元空間同定手法によって,脳機能結合の低次元ダイナミクスを捉えられる可能性が示唆された.また、周波数帯によって異なる挙動を示す可能性が示唆された。 B.データ同化を用いた興奮抑制バランスの評価 次に,超適応を実現するための重要なメカニズムの一つである脱抑制性について検討するため、興奮と抑制のバランス(E/Iバランス)を評価できる手法を用いた解析を実施した。今回は左右の運動野付近の合計2つのチャネルに対して解析を行ったところ、運動開始に伴って左右のチャネルで異なるE/Iバランスの変化を観測することができ、皮質脳波から直接観測できないE/Iバランスを推定できる可能性を示唆した。
|