有害な刺激に対する嫌悪感や恐怖反応は、動物が生存していく上で重要なものである。しかし、恐怖の記憶が強すぎる場合、安全な環境下であっても恐怖反応を示すといった適応的でない行動を示す不適応状態に陥る。その後の恐怖消去学習により、これらの動物は超適応状態に入り、適応的な行動の能力を取り戻すことができる。しかし、これらのプロセスの神経機構はよく理解されていない。そこで本研究では、不適応状態から超適応状態へと遷移する際の領域ネットワークの変化を明らかにすることを目的とし、大規模電気生理学記録を行いた複数の脳領域からの同時記録を行い、脳領域横断的なネットワークの変化を各脳領域のアンサンブルの活動に基づいて解析した。 本年度はとくに、恐怖条件付けと消去学習中の脳内のニューロン細胞アンサンブルの活動について、脳領域横断的な同期活動に注目して解析を行った。その結果、消去学習によって有意な同期活動を示すアンサンブルのペアの割合はほとんど変わらないが、同期活動を示すアンサンブル・ペアの構成が変化することが明らかとなった。さらに、脳領域横断的な同期活動に関与しているアンサンブルは、それ以外のアンサンブルに比べて消去学習の保持テストまで保持されるものの割合が多い傾向が認められた。 これらの結果は、脳領域横断的な同期活動への関与することが、各脳領域の局所的なセル・アンサンブルの安定性と関係していることを示唆している。しかし、セル・アンサンブルの安定性と脳領域横断的な同期活動との因果関係は明らかにされていない。この点については、今後の研究で脳領域横断的な同期活動を操作した際の影響を評価することによって検討したい。
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