研究実績の概要 |
脳梗塞により失われた機能は、急性期に残存神経回路の代償過程により部分的に回復する。そうした回復過程には、広範な残存領域の脱抑制が関わっており、例えば、大脳皮質一次運動野(M1)において、梗塞を作成すると直接結合をもった一次体性感覚野において抑制が解除される(Fukui, Osaki et al., Sci.Rep., 2020)。一方、急性期の脱抑制状態で回復できなかった場合、慢性期における機能回復は困難なものが多い。 我々のグループは、動物実験レベルで神経回路の脳梗塞急性期から慢性期にかけての機能的変化に着目し、特定の神経回路を制御することで、慢性期における機能回復を促すための手法を開発することを目指している。具体的には、巧緻動作が必要な課題を行わせる実験系を立ち上げ、神経活動イメージングおよび電気生理学的手法を用いた計測を組み合わせて、課題遂行中のM1が、運動野脳梗塞前後、またその回復過程においてどのような変化を起こすのかを観察し、通常の回復過程を上回る「超回復」を誘導する神経回路の活動制御法を開発することを目指している。 本年度は、げっ歯類において運動野脳梗塞の機能損傷の程度を調べることに広く用いられている梯子走行課題システムを構築した。本システムを用いて、M1損傷による機能障害の程度を計測し、それらとM1損傷前後の神経活動および運動機能の変化、さらに神経活動制御による回復の誘発を目指してシステムの構築を行った。多点カメラにより主に四肢の動きをモニターし、DeepLabCutと独自のアルゴリズムを組み合わせることで四肢が梯子から落ちたことを自動で計測できるようになっている。その結果、運動野脳梗塞において梗塞半球の対側の前肢および後肢において梯子から外れる頻度が上昇する傾向を見出した。
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