研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H04792
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
肥後 範行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究グループ長 (80357839)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 脳卒中 / 非ヒト霊長類 / 動物モデル / 神経可塑性 / 脳イメージング / 組織化学 / マカクサル |
研究実績の概要 |
内包後脚脳卒中マカクモデルをを対象として、MRIを用いたvoxel-based morphometry (VBM) 解析および免疫組織化学的染色を行った。VBM解析の結果から、脳梗塞後運動機能回復が見られた時期には、梗塞対側運動前野腹側部で灰白質(GMV)の増加が示唆された。錐体細胞を染色するSMI-32抗体を用いた免疫組織化学染色の結果では、梗塞同側半球の第一次運動野V層に存在する錐体細胞の縮退が見られた。これは内包梗塞後による逆行的神経変性によると考えられる。一方、運動前野腹側部V層に存在する錐体細胞では、樹状突起の分枝が増加していることが明らかになった。本結果は、対側運動前野腹側部の運動出力細胞における代償的構造変化が内包梗塞後の運動機能回復に重要であること、VBM解析で見られたGMV変化の背景として樹状突の構造変化があることを示唆する。得られた成果を論文にまとめ国際英文ジャーナルであるCerebral Cortex Communications誌に公表した。また体性感覚経路の脳卒中病変によって脳卒中後疼痛(CPSP)と呼ばれる慢性的な痛みが生じることが知られている。これまで視床脳卒中マカクモデルを用いた私たちの研究により、後部島皮質・二次体性感覚野と呼ばれる部位の過剰な脳活動上昇や構造的な変化を報告してきた 。異痛症と温熱刺激に対する痛覚過敏が、病態のメカニズムとして共有された神経基盤を持つのかを行動薬理実験で検証した結果、サルモデルの後部島皮質・二次体性感覚野にGABAアゴニストであるムシモルを投与すると、温熱刺激に対する痛覚過敏が減少することを示した。この結果は、触覚刺激や温熱刺激によって誘発される異常な痛みには共通の神経基盤が存在することを示唆する。得られた成果を論文にまとめ国際英文ジャーナルであるEuropean Journal of Pain誌に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
内包後脚脳卒中マカクモデルをを対象として、MRIを用いたvoxel-based morphometry (VBM) 解析および免疫組織化学的染色を行った成果と、異痛症と温熱刺激に対する痛覚過敏が、病態のメカニズムとして共有された神経基盤を持つのかを行動薬理実験で検証した成果が得られ、それぞれ国際英文ジャーナルに公表できたことからおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
シナプスマーカー分子や可塑性マーカー分子を用いた組織化学的解析によって細胞レベルの解析をさらに進め、脳卒中後に生じる適応的および非適応的変化の背景にある詳細なメカニズムを明らかにする。
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