研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22H04796
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
有澤 琴子 東北大学, 薬学研究科, 助教 (00813122)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セレン / セレノプロテインP / 鉄 / フェロトーシス / 酸化ストレス / NASH |
研究実績の概要 |
本研究では、必須微量ミネラルであるセレンおよびセレン含有タンパク質による抗酸化機能に着目し、特にセレノプロテインP(SeP)を介した肝臓のレドックス制御機構を解明することで、肝疾患発症の機序を理解し、治療法の開発に応用することを目指して研究を行なっている。 SePは、主に肝臓で産生され、各組織にセレンを供給することで全身の抗酸化機能を制御している。一方、SePの主要な産生臓器である肝臓自体におけるSePの生理的機能については理解されていない。今年度は、肝細胞からのSeP分泌の増減が肝臓のセレン量および抗酸化に関与するセレン含有タンパク質の発現量を調節しうるか明らかにすることを目的とし、培養細胞およびマウスを用いた検討を行なった。 肝がん由来HepG2細胞のSeP遺伝子をCRISPR-Cas9でノックアウトした結果、細胞内のセレン量および、グルタチオンペルオキシダーゼ1/4(GPx1/4)の発現が増加することが明らかになった。またSePノックアウトにより、ErastinおよびRSL3により誘導されるフェロトーシスに対する耐性を持つことが示された。マウスを用いた検討では糖尿病モデルおよびNASHモデルを用い、前述の肝細胞からのSeP分泌量の変化と細胞内セレン量調節の関連を検証した。血中のSePが増加することが知られている糖尿病モデル(KKAyマウス)および、食餌誘導性のNASHモデル(コリン欠乏・メチオニン減量高脂肪食、高脂肪高コレステロール食)を用いた。しかしこれらのモデルマウスにおいて、病態発症と共に血中へのSeP分泌の増加は認められたものの、予想していた肝臓のセレン含有タンパク質量の減少や、セレン量の変化は見られなかった。マウスの一般飼料中に含まれるセレン量が多いことが原因として考えられるため、現在セレン量を調整した飼料を用いた検討を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養細胞を用いた検討においては、当初の想定通りの進捗が得られた。また、SePノックアウト細胞においてフェロトーシス感受性が抑制されたことから、細胞内の鉄代謝変化についても着目したところ、リソソーム二価鉄の抑制や鉄代謝調節ホルモンのhepcidinの発現低下が見られ、SePによる鉄代謝調節という新たな知見が示唆された。 疾患モデルマウスを用いた検討においては仮説どおりの結果が得られなかったが、その理由として、マウスの一般的な飼料に含まれるセレン量が、マウス肝臓におけるGPx1/4合成のための必要十分量として報告されている値に対して著しく高いことが原因と考えた。そこで低セレン飼料をSeP KOマウスと野生型マウスに与える検討を行なった。通常飼料のCE-2摂食時はSeP KOマウスと野生型のGPx1発現に差は認められなかったが、低セレン飼料を与えセレンが不足した条件下では、SeP KOマウスにおいて肝GPx1の顕著な増加が見られ、培養肝細胞と一致した結果が得られた。本検討より解決の方向性が示されたことから、研究全体としてはおおむね順調に進展している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
個体レベルにおけるSePによる肝臓のセレン量調節には食餌からのセレン摂取量が影響することが明らかになったため、今後、糖尿病モデルやNASHモデルマウスでも食餌からのセレン摂取量を調節した上での検討を行う予定である。 培養細胞を用いた検討については、肝細胞におけるSePの発現量が細胞内鉄代謝を調節することが示唆されたため、今後はその機序についても検討を行う予定である。SePはApoER2などの細胞膜受容体を介してエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、リソソームで分解され細胞にセレンを供給するが、我々は、細胞外から添加したSePがリソソームの酸性度を調整するという結果を得ている。リソソームはフェリチンの分解やトランスフェリンからの鉄取り出しなど、鉄代謝調節における中心的な場になっていることから、SePによるリソソーム機能調節が鉄代謝の制御に関与するという仮説のもと検討を進めることを計画している。
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