研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22H04799
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
新開 泰弘 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10454240)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | サルフェン硫黄 / レドックス制御 / 亜鉛制御 / メタロチオネイン |
研究実績の概要 |
メタロチオネイン(MT)は分子内の約3割がシステイン残基で構成される金属結合タンパク質であるが、そのレドックス制御の分子メカニズムには未だに不明な点が多い。我々はタンパク質結合性のサルフェン硫黄をLC-MSで定量する分析法を確立し、MTが高度にサルフェン硫黄の修飾を受けた超硫黄タンパク質であることを見出した。そこで本年度は、Growth Inhibitory Factor (GIF)/Metallothionein-3 (MT3)のレドックス制御機構における超硫黄の役割を解析した。亜鉛結合型GIFと過酸化水素や一酸化窒素発生剤との反応により分子内のSH/SSH基はいずれも減少し、亜鉛の遊離と共にサルフェン硫黄の検出量の低下も観察された。一方、そのような酸化型のGIFをTCEPにて還元処理することによってサルフェン硫黄の検出量は回復した。これらの結果から、GIF中の超硫黄はその反応性の高さから亜鉛の遊離メカニズムに重要な役割を果たしており、その際、亜鉛の遊離によってアポ型GIFの分子内における超硫黄は失われるのではなく、その分子構造が変化し、環状(例: R-S-S-S-S-R)となって保持されていることが示唆された。また、細胞内においてアポ型GIFを還元する酵素について検討したところ、チオレドキシンシステムが非常に効率良くアポ型GIFを還元した。一方、亜鉛結合型GIFはチオレドキシンの基質とはならなかったことから、亜鉛は超硫黄構造の安定性に寄与していることが考えられる。 以上より、GIFに結合した超硫黄は亜鉛の結合・遊離のメカニズムに関与しており、酸化によって生じた環状の超硫黄構造はチオレドキシンシステムによって元のパースルフィド型に戻り、サルフェン硫黄が亜鉛の保持に再び利用されるという可逆性が担保されたレドックス制御機構の存在が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
亜鉛はヒトの体内において鉄に次いで含量の多い必須微量金属元素であり、その多くがシステイン残基のSH基を介してタンパク質に結合している。亜鉛の働きは非常に重要であり、タンパク質の構造の維持や酵素活性の制御に関わるとされているが、タンパク質と亜鉛との結合を制御する因子についての知見は十分ではない。本研究では、サルフェン硫黄がMT分子種のレドックス制御や亜鉛結合能において重要な役割を担っていると予想し、MT分子種のレドックス制御機構におけるサルフェン硫黄の役割と、亜鉛の結合と遊離に関わる分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。今年度は、GIF/MT3をモデルタンパク質として使用し、サルフェン硫黄が亜鉛の結合・遊離のメカニズムに関与しており、酸化によって生じた環状の超硫黄構造はチオレドキシンシステムによって還元されて元のパースルフィド型に戻り、サルフェン硫黄が亜鉛の保持に再び利用されるという可逆性が担保されたレドックス制御機構の存在を明らかにしたことから、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
MT分子種はそのダイナミックな分子構造から、結晶構造解析が非常に難しいことが認識されており、成功例が少ない。そこで、サルフェン硫黄を含んだ3次元構造解析については、統合計算ソフトMOEを用いて詳細な分子モデリング解析を行う。すなわち、MT分子種に関する既存の3次元構造のデータベースを基に、MT分子種の3次元構造モデルを構築し、MT分子種においてサルフェン硫黄が構造的に果たしている役割を解析する。これにより、MT分子種に結合したサルフェン硫黄が、分子の安定性や金属の親和性にどのように関与しているかを計算科学的に明らかにする。
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