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2022 年度 実績報告書

ウイルスによる細胞内生命金属ハイジャック機構の解析

公募研究

研究領域「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究
研究課題/領域番号 22H04803
研究機関東京大学

研究代表者

川口 寧  東京大学, 医科学研究所, 教授 (60292984)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2024-03-31
キーワードウイルス / HSV / 生命金属 / 亜鉛
研究実績の概要

1.HSVは、小胞媒介性核外輸送と呼ばれる生物学的に非常にユニークな機構を用い、効率的なウイルス増殖を行う。申請者は、インタラクトーム解析とCRISPR/Cas9システムを組み合わせたスクリーニング法を開発し、小胞媒介性核外輸送に寄与する宿主因子として、Orphan transporter SLC35E1を同定した。SLC35E1欠損細胞では、野生型細胞と比較して、HSV-1感染時の小胞媒介性核外輸送の効率、およびウイルス増殖が有意に低下することが観察された。また、SLC35E1のtransporter活性を司ると想定されるアミノ酸残基へ変異導入時、SLC35E1欠損時と同様の表現型が認められた。以上の結果から、transporterが関与する特定の低分子の動態が、HSVの小胞媒介性核外輸送、およびウイルス増殖に寄与することが示唆された。
2.上記の結果を踏まえて、生命金属に対するtransporterの中で、HSVのウイルス増殖に寄与する因子の探索を行った。その結果、HSV増殖に関与する因子として、生命金属である亜鉛に対しtransporter活性を有する因子を1つ同定した。同定された亜鉛transporterは、非感染細胞において、小胞体様の局在を示すが、HSV感染により、感染細胞の核膜近傍に集積することが観察され、亜鉛transporter発現低下細胞では、HSVのウイルス増殖が野生型細胞と比較して有意に低下することが認められた。また、亜鉛インジケータを用いて亜鉛の局在を観察したところ、HSV感染細胞では、非感染細胞と比較して亜鉛の局在が細胞質全体に拡散しているように観察された。以上の結果から、HSVのウイルス増殖において亜鉛transporterが重要な役割を担うことが示唆され、HSV感染により亜鉛の細胞内動態が変動することが予想された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年度では、金属transporterなどが属するSLC(solute carrier)ファミリーの1つであるSLC35E1のtransporter機能がHSV-1の効率的なウイルス増殖に必要であることを見出し、その成果を論文として報告した(Maeda et al., J. Virol. 96: e00306-22)。さらに申請者は、生命金属である亜鉛のtransporterの1つがHSVの効率的なウイルス増殖に必要であることを示す知見をすでに得ており、HSV感染によって亜鉛の局在が著しく変動することも観察済みである。また、同定した亜鉛transporterにはtransporter機能の阻害剤が存在しており、HSV-1感染細胞における阻害剤使用時の表現型は、同定した亜鉛transporter発現低下細胞で観察されたものと同様であったことからHSV感染細胞内のtransporterを介したの亜鉛の動態変化が効率的なHSVウイルス増殖に寄与することが示唆された。さらに、HSVは感染動物モデルが存在するため、同定された亜鉛transporterの阻害剤を用いることで、HSV病態発現における、亜鉛transporter、および亜鉛動態変化の意義についても容易に解析可能であることが予想される。以上のことから、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

HSVの効率的なウイルス増殖に亜鉛transporter、および亜鉛の動態が関与する知見を得ることができたが、どのような機序でHSV増殖に寄与するのかは不明である。そこで、HSV-1感染時の野生型細胞と、亜鉛transporter発現低下細胞をRNA-seqに供することでHSV-1の効率的なウイルス増殖における亜鉛transporterの分子生物学的意義解明を目指す。また、同定した亜鉛transporterは阻害剤が存在するためHSV-1感染動物モデルに亜鉛transporterの阻害剤を投与することで、HSV-1の病態発現における亜鉛transporterの役割の解析、および本阻害剤のHSV感染に対する治療効果を検討する。上記の実験を行うことで、HSV-1の培養細胞でのウイルス増殖、および生体内での病態発現に生命金属である亜鉛がどのように影響し、HSV感染症における治療標的になりうるのか解明する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Redundant and Specific Roles of A-Type Lamins and Lamin B Receptor in Herpes Simplex Virus 1 Infection2022

    • 著者名/発表者名
      Takeshima Kosuke、Maruzuru Yuhei、Koyanagi Naoto、Kato Akihisa、Kawaguchi Yasushi
    • 雑誌名

      Journal of Virology

      巻: 96 ページ: -

    • DOI

      10.1128/jvi.01429-22

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ウイルスによる細胞内生命金属ハイジャック機構の解析2022

    • 著者名/発表者名
      川口 寧
    • 学会等名
      新学術領域研究「生命金属科学」令和4年度第1 回領域会議
  • [学会発表] Lamin A/Cは単純ヘルペスウイルス1型のウイルス増殖を制御する2022

    • 著者名/発表者名
      竹島功高, 岩田修治, 江藤由佳, 有井潤, 丸鶴雄平, 小栁直人, 加藤哲久, 川口寧
    • 学会等名
      第35回ヘルペスウイルス研究会
  • [学会発表] Hela細胞における単純ヘルペスウイルス1型のウイルス増殖に関与するLamin A/Cの役割2022

    • 著者名/発表者名
      竹島功高, 岩田修治, 江藤由佳, 有井潤, 丸鶴雄平, 小柳直人, 加藤哲久, 川口寧
    • 学会等名
      第69回日本ウイルス学会学術集会
  • [備考] 東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野

    • URL

      https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/Kawaguchi-lab/KawaguchiLabTop.html

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公開日: 2023-12-25  

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