生命金属はすべての生物においてその生命維持に必須であるが、単純ヘルペスウイルス(HSV)生活環における役割は殆ど明らかになっていない。最近、我々は細胞内の様々な分子の動態を制御するトランスポーターの活性が、HSVのウイルス増殖に寄与することを報告した(J. Virol. 96: e00306-22 [2022])。本知見は、HSV感染時、トランスポーターを介した輸送物質の動態変化がウイルス増殖に影響を与えることを予想させた。これらの背景を元に本課題ではHSV生活環に関わる生命金属とそのトランスポーターを探索し、その意義解明を試み、以下の知見を得た。1)HSV増殖に寄与する生命金属トランスポーターをCRISPR/Cas9を用いたスクリーニングにより探索したところ、1つの亜鉛トランスポーターが候補に挙がった。2)当該亜鉛トランスポーターの発現抑制または、そのトランスポーターの機能を抑制する薬剤処理によって、HSVの子孫ウイルス産出量が約10倍程度低下した。3)亜鉛インジケータを用いて亜鉛の局在を観察したところ、HSV感染により細胞内の亜鉛の局在が変化することが観察された。4)マウスへHSVを脳内接種時、当該亜鉛トランスポーターの阻害剤を同時に接種することにより、DMSO同時接種群と比較してマウスの致死率が有意に低下した。これら一連の解析から、生命金属である亜鉛及び当該亜鉛トランスポーターは、HSVの生活環において重要な役割を持つことが明らかとなったと考えられる。
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