公募研究
マグネシウム(Mg)は、植物体内で多くの酵素の補因子として利用されて生命活動を支える「生命金属」である。ところが、植物におけるMgの生体内動態に関する知見は乏しく、Mg輸送機構やMgホメオスタシス維持がどのような植物応答に役立っているのかほとんど明らかでない。今年度は、申請者が最近明らかにした新規のMg輸送体候補のCST2を対象として研究を進め、異種細胞発現系(酵母とツメガエル卵母細胞)やプロテオリポソームなどの材料を用いてCST2のMg輸送活性を測定する実験系を模索した。その結果、酵母にCST2を過剰発現することで細胞内Mg含量を増加させることを見出し、CST2自身がMg輸送活性を持つことを証明した。また、孔辺細胞特異的にCST2を過剰発現させることで気孔開口が誘導されることを示し、気孔開口のための浸透圧増加に孔辺細胞液胞内へのMg輸送が貢献することを見出した。以上の結果から、CST2は植物における新たなMg輸送体で、液胞内にMgを輸送して植物細胞のMgホメオスタシス維持を担うこと、さらに、植物はこのMg輸送メカニズムを利用して気孔を開口させることを見出した(Inoue et al., 2022 New Phytologist)。また、Mgの生体内動態を明らかにするため、領域内の計画班員と連携を進め、量子ナノビームを用いた植物組織のMgイメージングの系の構築にも挑戦している。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、気孔開口とMgホメオスタシス維持を担うCST2分子を同定していたが、具体的にCST2がどのような生化学機能を持ち、これらの応答を仲介しているのか不明であった。今年度の研究により、CST2は細胞の中で液胞内にMgを輸送し、この輸送が植物細胞のMgホメオスタシス維持に重要であることを見出した。さらに、植物は孔辺細胞においてこの液胞内へのMg輸送を気孔開口のための浸透圧増加に利用していることを見出した。これらの結果は、植物における新しいMg輸送体を同定し、その機能を明らかにしたばかりでなく、気孔開口の新たな分子メカニズムの解明に貢献し、植物のMg活用にも重要な知見を提供した。これらの成果は植物生理学・植物栄養学・生物金属科学の分野の研究進展に大きく貢献するため、進捗状況は順調であると考えられる。
今後もツメガエル卵母細胞やプロテオリポソームを利用してCST2の輸送活性測定の条件検討を進め、CST2のMg輸送活性の定量性をより高めて今後の機能解析に利用したい。また、植物体全体および細胞内レベルにおけるMg動態を理解するため、Mgイメージングの系を構築する。Mgセンサータンパク質や量子ビームを用いてさらに条件を検討し、実用的な測定系を確立したい。さらに、領域内の班員と連携し、新たにCST2分子の構造解析を進める。機能的なCST2を効率良く発現する実験系を模索するところから始め、構造解析まで完了したい。また、細胞内でCST2を活性化するシグナル伝達機構を明らかにする。これまでにMgホメオスタシス維持に重要であることが明らかにされているCBLs-CIPKsがCST2の活性調節を担う可能性を検討する。これらの研究により、植物におけるCST2を介した液胞へのMg輸送制御機構の詳細な理解を目指す。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
New Phytologist
巻: 236, ページ: 864-877
10.1111/nph.18410
Plant Physiology
巻: 188 ページ: 2228-2240
10.1093/plphys/kiab571