公募研究
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、院内感染の主要な原因菌の一つであるが、その広範囲な抗菌剤に対する薬剤耐性から世界的な問題となっている。新規の抗菌薬は天然シーズの枯渇から新規開発が進んでおらず薬剤耐性株に対して有効な新しい抗菌戦略が必要である。黄色ブドウ球菌が宿主から鉄を獲得する主要な経路は、Isd(iron surface determinant)システムである。このisdシステムは、9種類のタンパク質から構成されており、ヘム鉄を菌体外から菌体内に取り込むためのトランスポーターシステムである。生体内では鉄はそのほとんどが細胞内に保持されているため、病原細菌は増殖に必須である鉄を効率的に取り込む必要がある。そのため、ヘムを取り込むシステムは、病原性細菌で発達しており、黄色ブドウ球菌やA群レンサ球菌等で発達している。黄色ブドウ球菌の菌体表面に存在するヘモグロビン受容体IsdHとIsdBは、ヘモグロビン(Hb)からのヘム鉄を獲得するために必要である。そこで、ヘム獲得を阻害する目的で、isdHおよびisdBに対するアルパカ由来の単分子抗体であるVHH抗体を作製した。この抗体は、IsdHとIsdBのヘム結合ポケットを、そのCDR(complementary-determining region)2およびCDR3を介してnMオーダーの親和性で認識することを明らかにした。試験管内でのヘム獲得阻害のメカニズムは、抗体のCDR3が細菌レセプターによるヘム獲得を競合阻害する可能性が示唆された。そこで、得られた抗体を用いて、実際にMRSA株に対する増殖阻害効果を確認したところ66 nM以上の濃度でVHH抗体を添加すれば、菌の増殖を効果的に誘導することが可能であった(図1)。これらの結果から、MRSAに対する抗菌戦略として、栄養素の取り込みを阻害するメカニズムが明らかになった。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature Communications
巻: 14 ページ: 6230
10.1038/s41467-023-42039-2
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http://www.bac.med.kyoto-u.ac.jp