フェロトーシスは鉄による脂質過酸化によって惹起される鉄依存性の細胞死である。しかし、「フェロ=鉄」という名称に相反して、鉄の側面からフェロトーシスの解析は行われてこなかった。そこで、鉄の側面からフェロトーシスを再解析するために、鉄添加のみでフェロトーシスを誘導できる新たな系を構築し、その系を用いて全遺伝子を対象としたCRISPRスクリーニングを行なった。その結果、多種多様な制御因子の同定に成功した。中でも、鉄誘導性フェロトーシスの抑制因子にセレンタンパク質合成系が全て含まれていることに着目した。セレンタンパク質は活性中心に21番目のアミノ酸であるセレノシステインを含有するタンパク質群である。スクリーニングリスト中に新たなセレンタンパク質合成因子が含まれる可能性を考慮し、フェロトーシスのマスター制御因子であるセレンタンパク質GPX4の発現を指標に2ndスクリーニングを行なった結果、新たなセレンタンパク質合成因子としてPRDX6を同定した。PRDX6欠損細胞ではGPX4を含むセレンタンパク質の発現が著減し、鉄添加のみで細胞死が誘導された。PRDX6は以前から抗酸化酵素として知られ、GPX活性により酸化物の除去に関与すると考えられていたが、解析の結果、PRDX6にGPX活性はないことを見出した。またPRDX6によるセレンタンパク質合成促進メカニズムを解析し、PRDX6はセレンと結合し、セレンの輸送体として働くことで、セレンタンパク質の原材料となるセレンの利用効率を増加させていることを見出した。またPRDX6とがんとの関連を調べ、がん細胞ではPRDX6の発現が増加し、PRDX6発現の高いがん患者では予後が悪いことを見出した。
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