公募研究
我々は、データベースを用いた「構造-機能相関解析」に対して、量子化学計算で得られる各種物性値を仲立ちさせる「構造-物性-機能相関解析」というアプローチの実用性を検証・改良することを目的として、ヘムタンパク質をはじめとした金属含有酵素の反応活性を解析している。今年度は主に以下の2項目を達成した。1. P450norの個性の帰属: P450norは有毒な一酸化窒素(NO)を無毒なN2O分子に変換する一酸化窒素還元酵素(NOR)として働くヘムタンパク質である。P450norの特徴的な反応活性を何が支配しているか理解するために、開発中のヘムの構造機能相関解析ツール「PyDISH」を用いてP450norの機能に相関しうる構造特徴の抽出を行った。またそれに先んじて行った量子化学計算による反応機構解析の結果を併せて解析した結果、P450norの構造デザインは、P450norの反応サイクルのうち特にヒドリド付加反応の促進に力点が置かれていて、他の過程は、今回の解析で着目しなかったNO分子の取り込み経路を除けば”おざなり”となっているとみなせることが明らかになった。2. 深層学習との併用可能性検討: PyDISHに含まれるデータ数は、一般に深層学習で扱われているものに比べやや少ないため、そもそも深層学習を導入する意義があるか否かについて初期検討を行った。その結果、構造を画像データ化して入力として用い、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いることでヘムの構造歪み並びに機能を共に高精度で予測可能であることが実証された。
3: やや遅れている
当初予定では当年度中に研究実績の概要1. P450norの個性の帰属について成果を論文発表まで行う予定であったが、完了できなかったため。現時点でこの論文については執筆中であり、2023年8月までに投稿する予定である。
量子化学計算で得られる物性値を仲立ちさせることで機能の予測精度向上が可能であるかについて引き続き検討を行う。また、ヘムに適用したものと同様のスキームを他の金属含有酵素に適応させるための試行錯誤を通して、より広範なタンパク質系に適用可能な、「個性決定因子同定」の方法論の開拓も進めている。具体的には、アクチンが触媒するATP加水分解反応について、野生型の活性中心のMg2+をCa2+イオンに置換した置換体では加水分解活性が低下する実験事実を説明付けるために、Ca2+置換体の結晶構造を用いた反応経路解析を行い、反応機構が得られ次第、研究協力者の小池助教が開発したATP加水分解酵素のデータベース(仮称: ATPaseDB)を参照した統計解析を実行し、アクチンに特徴的な、加水分解反応速度の遅さと不可逆性の起源因子の同定を行う予定である。
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Biomolecules
巻: 13 ページ: 137
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Chemistry Letters
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10.1073/pnas.2122641119
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/73619