昨年度までの検討により、交感神経終末から遊離されるノルアドレナリンによるtransient receptor potential canonical (TRPC)6チャネルの活性化が、亜鉛イオン(Zn2+)の流入を介してβアドレナリン受容体(βAR)の脱感作を抑制することで、交感神経刺激に対する心筋の収縮応答を増強させることを動物レベルで明らかにした。本年度は、TRPC6を介した局所Zn2+流入の心臓以外の臓器での役割を明らかにすることとした。 Zn2+ は腸の酸化還元および微生物の恒常性の調節に関与しているとされており、炎症性腸疾患 (IBD)患者では、血中亜鉛濃度が減少していることが知られている。腸内細菌叢の再プロファイリングによる腸のストレス脆弱性は、IBDの予後不良につながる。そこで、マウス腸のストレス耐性における TRPC6 媒介 Zn2+ 流入の役割を明らかにするために検討を行った。IBD 患者の粘膜における TRPC1-C7 mRNA の発現プロファイルを、GEO データベースを使用して分析したところ、TRPC6 mRNA 発現レベルは、IBD 患者の粘膜で増加していた。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性大腸炎モデルを用いて、腸炎におけるTRPC6の役割を検討したところ、TRPC6欠損マウス(TRPC6 KOマウス)では、WTマウスと比較して、重度の体重減少と疾患活動性指数の増加を示した。 加えて、抗酸化タンパク質の mRNA 量はTRPC6 KOマウスの結腸で増加し、TRPC6 KOマウスでは腸内微生物叢のプロファイルが変化した。 TRPC6 活性化因子による治療により、腸組織のZn2+ 濃度の増加を伴いDSS 誘発性大腸炎の進行が抑制された。
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