本研究は重金属超集積植物であるNoccaea属植物をモデルとし、超集積植物が独自に獲得した金属トランスポーターにおける一次構造の変化を同定し、その変化が重金属集積性および耐性に与える影響を解析することで、植物の金属環境適応戦略における金属トランスポーターの分子進化を明らかにすることを目的とする。 1)昨年度までに、Ni吸収に関わるFe輸送トランスポーターIRT1が、高Ni適応種であるNoccaea japonicaにおいて極めて得意的な構造変異が生じていることを明らかにしてきた。今年度は、N. japonicaおよび近縁種より単離したIRT1の金属輸送試験を酵母を用いて実施した。その結果、N. japonica由来のIRT1は他種由来のIRT1と同様にFe輸送能を持つ一方で、Ni輸送能は他のIRT1よりも低いことが明らかとなった。これはN. japonicaが高Ni土壌に適応する過程で過度なNi吸収を抑制するために起きた分子進化であると予想された。今後はN. japonica由来のIRT1を利用した作物のNi集積低減技術への応用が期待される。 2)集積種のN. caerulescensとモデル植物のシロイヌナズナを対象に、全ゲノムでのスプライシングパターンの詳細な解析を進めた。その結果、約4000個の遺伝子においてシロイヌナズナと比較しN. caerulescensでRNAアイソフォームが増加していることが明らかとなり、さらにこの遺伝子群には金属輸送に関わる遺伝子が濃縮されていた。これは、スプライシングを介して金属輸送関連タンパク質の構造的多様性が拡大したことを示している。今後、これらのタンパク質の機能を明らかにすることで植物の重金属耐性や作物のミネラル栄養価強化につながることが期待できる。
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