ケージド化合物を利用したタンパク質・酵素反応中間体捕捉法の開発を行った。グルコキナーゼ(GK)はスモールドメイン、ラージドメイン、それらをつなぐヒンジ領域から成る酵素であり、グルコースとATPからグルコース6リン酸とADPを産出する化学反応を触媒するTCAサイクルの初発酵素である。これまでの結晶構造解析からGKにまずグルコースが結合することで両ドメインが開いたOPEN構造からsemi-CLOSED構造へ変化し、次にATPが結合することでCLOSED構造へと変化することを明らかにしている。そこでラージドメインおよびスモールドメインに2か所システイン変異を導入したGKを複数精製した。この試料とケージドATP、グルコースアナログであるキシロースを混合し、電子電子二重共鳴法(DEER)によってラベル間距離の測定を行った。距離測定の結果、GKにキシロースが結合し、semi-CLOSED構造へと変化していることが明らかになった。次にこの試料について77K下で光照射を30分間行い、ケージド化合物からATPを完全に放出させた。この試料のDEER測定では、光照射前後で構造変化が起きていないことが明らかになった。続いてこの試料に対しアニーリング実験を行った。77Kでは何も構造変化が起きていなかったが、200Kまで昇温するとsemi-CLOSED構造からCLOSED構造へと変化することが明らかになった。つまり、ケージドATPと酵素を混合し、液体窒素での凍結下で光照射してもATPは拡散せず酵素反応は始まらないが、200Kなどの凍結状態を維持したまま昇温することで、ATPが凍結下でも拡散し、酵素に結合することで構造変化が起きることを明らかにすることに成功した。つまりケージド基質を利用することで液体窒素凍結下で反応始状態を作ることができ、昇温によって反応が追跡できることが明らかになった。
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