研究実績の概要 |
前周期遷移金属の内、モリブデンMo, タングステンW, バナジウムVは酵素活性中心として様々な機能を司っており、その生体内動態の詳細解明が望まれている。そこで、これらオキソ酸を結合・輸送・貯蔵するタンパク質を包括的に特性解析することによって、前周期遷移金属オキソ酸の動態を体系的に理解する。Mostoと呼ばれるモリブデン貯蔵タンパク質は、ヘテロ6量体構造をとり、中心に大きな空洞を持つ。この空洞内にモリブデン酸をポリオキソメタレート(POM)の状態で約150原子貯蔵し細胞内のモリブデン恒常性維持に貢献している。ゲノムデータベースからA. vinelandii DJ由来Mostoのαサブユニットに類似のホモログを検索し系統樹解析をしたところ、いくつかのグループに分類された。本研究ではそのうちの一つを発現精製し、結晶構造を決定したほか、Mostoホモログのオペロンを解析し、ATP結合カセット(ABC)トランスポーターを発見した。細菌は外界から獲得したタングステン酸を、この輸送体を通じて細胞質内へと運んでいることが知られている。特にタングステン酸に特異的に結合するとされるTupABCに相同性が高いことがわかった。そこで、オキソアニオン選択性に関する知見を得るため、TupAの単離と結晶化を試みた。TupAは結晶構造解析から単量体であることが推測され、2つのローブからなることがわかった。得られた結晶にタングステン酸を浸漬した結果、結合部位には、タングステンとそれを取り囲む4つの酸素原子が観察された。さらに、apo型とholo型での構造を比較したところ、2つのローブが開いているopen-formと閉じているclosed-formが観察され、タングステン酸の結合により構造変化が引き起こされることが予想された。
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