生体は重力や張力など様々な力刺激環境に囲まれており、これらの力を感知して細胞内化学シグナル伝達を変動させることで、細胞運動や形態形成などの空間パターンを制御する。インテグリン受容体を含む高次構造体である接着斑は主に細胞外基質からの力刺激を感知し、細胞質側でアクトミオシン骨格の力発生を制御することが知られているが、この力刺激を細胞内化学シグナルへ変換する分子機構には未だ不明な点が多い。本研究では、接着斑のダイナミクスを制御する物理情報伝達機構に着目し、接着斑が感知した力情報がアクトミオシン力発生の細胞内パターンを制御する、「力学―化学情報変換」反応のパターニング機構を解明することを目的とする。 本年度の研究では、アクトミオシン、細胞膜、RhoGTPase関連分子、微小管の詳細なイメージングとその画像解析を行い、移動中の細胞における、細胞膜の伸展・退縮サイクルとRhoA関連因子群のダイナミクスが時空間的に強固に連携していることを明らかにした。また、細胞外基質のマイクロパターン法を用いて細胞外環境を操作し、細胞の形態を人為的に制御する方法を確立した。この手法によって細胞の形態変化が細胞内分子の局在パターンの変化を誘導していることを確認した。これらの結果より、細胞外部からの「力情報」が、アクトミオシンを制御する分子機構の一端を明らかにすることができた。これらの研究成果については、第35回バイオエンジニアリング講演会、第75回細胞生物学会大会、第32回日本バイオイメージング学会学術集会、第61回日本生物物理学会年会において招待講演を行なった。
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