研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
22H04827
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
西野 敦雄 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (50343116)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 活動電位の伝播 / リズム現象 / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
生命現象には,さまざまに変容するリズム(開始/停止,変調,同期,伝播するリズムなど)を示す性質がある。このような時空間の中で変容するリズムの研究は,生命活動の根本原理を理解する上で重要であるが,研究者自らが実際の細胞を自由に組み立て,変容するリズムを生じる細胞集団を“デザイン”し,実際に実験をすることができるようなプラットフォームはこれまで存在しなかった。本研究の目的は,活動電位を発動する因子を発現させたアフリカツメガエルの卵母細胞をブロックのピースとし,リズムを生成するペースメーカー細胞(Pブロック)と,受け取った刺激を伝えるリレー細胞(Rブロック)をそれぞれ作製して組み合わせ,リズムの変容現象を実際の細胞集団を使って解析可能にするとともに,実際にそれらの細胞集団に起こる変容リズムの時空間パターンを解析することである。我々は2022年度において,ホヤに由来するNav1チャネル,Kv1チャネル,アセチルコリン受容体,さらにはチャネルロドプシンをアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させることにより,アセチルコリンの投与や青色光照射に応じて,カエル卵に活動電位を発出させることに実際に成功した。また,ホヤ幼生の遊泳運動を20秒に1回引き起こす“タイマー機能”がホヤ幼生の体幹部と尾部の境界部分に限局して存在することを明らかにして論文発表を行った。このホヤ幼生の遊泳運動リズムの変容に深くかかわると期待される複数のイオンチャネル種の発現部位の解析を行い,少なくとも二つの因子が関与する可能性を示した。さらに,ホヤ幼生の尾部筋肉の振動運動のシミュレーション解析に共同研究の形で着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アフリカツメガエルの卵母細胞において,Kir2/5チャネルを発現させることにより静止膜電位を大きく下げることが可能になった。これによって膜電位固定をすることなく,活動電位の発出を行える条件が整った。ここに,ともにβサブユニットを必要としないホヤのNav1,Kv1とともにアセチルコリン受容体ないしチャネルロドプシンを発現させることによって,アセチルコリンの投与や青色光の照射に応じて確かに活動電位を発出させられることを確証することができた。これは本研究の目的に対して非常に重要な進歩である。また,ホヤ幼生の体幹部と尾部の境界部に発現するイオンチャネル種が絞られてきたことから,ホヤの幼生の遊泳運動のリズムが形成される仕組みについて,発現するイオンチャネルの分子機能の面から迫ることができる可能性が高まった。これらの因子は,カエル卵アレイの作製,特にPブロックの作製に重要なカギになると期待できる。ただし,年末にコロナウィルスに感染したことで,研究の計画が2か月ほど遅れることになったので,予算の一部繰り越しを申請した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに完成させた組み合わせに加えてさらにコネキシンを発現させることで,卵母細胞同士をギャップ結合で電気的に連結させる。ホヤ幼生の遊泳運動のリズムの形成に関与すると期待されるイオンチャネルについてツメガエル卵に導入し,期待される電流を発するイオンチャネルであるかを調べる。リズム形成に関わると確かに期待さる分子機能を備えていれば,上記の組み合わせにさらにこの因子を加えて導入し,Pブロックの役割を果たすものになるかを検証する。ホヤ幼生においても機能解析を行い,運動リズムが攪乱されるかを検証する。
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