本研究では、ショウジョウバエのドーパミン神経をモデルに、シナプス前終末のカルシウム動態に関連する因子を同定し、個体行動における局所制御の意義を解明することを目指す。シナプス前終末の局所カルシウムの作用点となるアクティブゾーン構成要素に着目し、シナプス構造、ライブイメージング、行動解析を用いて統合的にシナプスタンパク質の空間制御メカニズムを明らかにする。 今年度は、splitGFP再構成技術をCRISPR/Cas9法を用いた内在性タンパク質タギングと組み合わせることで、シナプス前終末におけるアクティブゾーンの構成タンパクであるBruchpilot(Brp)の局在を細胞種特異的に可視化した。また、組織透明化技術と三次元デコンボリューション等の画像処理法を最適化し、分子凝集の強度、形状、密度を自動定量する解析パイプラインを構築した。この解析系により、ショウジョウバエの連合学習を司る脳構造キノコ体において、アクティブゾーン構成分子の空間分布の詳細が単一細胞レベルで明らかとなり、シナプスタンパク動態の不均一性に寄与する構造的特徴を抽出することが可能となった。一例として、キノコ体全体に投射する巨大単一神経細胞であるAPL ニューロンおよびDPM ニューロン間でBrp凝集体の分布が著しく異なることを発見し、アクティブゾーンの空間配置の制御様式が細胞種によって異なることを見出した。このことは、連合学習などの経験依存的な修飾が一部のシナプス前末端に局所的に作用することを示唆している。
|