研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
22H04830
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金澤 輝代士 京都大学, 理学研究科, 准教授 (50759256)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非マルコフ過程 / 確率過程 / マスター方程式 / 非線形ホークス過程 / マルコフ埋め込み |
研究実績の概要 |
本研究の目的は非マルコフ過程の数理基盤を完成させることを目的とする.確率過程の主要クラスにマルコフ過程がある.マルコフ過程とは系の過去(履歴)に依存しない確率過程である.一方で,非マルコフ過程は系の時間発展の過去(履歴)に依存する確率過程である.マルコフ過程については様々な数学的道具(マスター方程式等)が揃っているが,非マルコフ過程については殆ど数学的道具が揃っていない.本研究では非マルコフ過程の基本的道具,特にマスター方程式を整備することを目標とする. 今年度は非マルコフ過程の代表例として非線形ホークス過程を取り扱った.ホークス過程は自己励起性を持つ点過程(時間軸上でのイベント発生の数理モデル)であり,様々な自然・社会現象を記述することが出来る.そして非線形ホークス過程は,ホークス過程に非線形性を導入することで構成されるより一般化されたモデルである.しかし,非線形ホークス過程は非マルコフ性と非線形性が共存しており,非常に解くことが難しい.本研究で非マルコフ過程の一般的数理基盤を完成させる上で,初年度は本モデルを具体例とすることで一般化の糸口を探ることを目指す. 最終的に,非線形ホークス過程の様々な解を導出することに成功した.具体的にはマルコフ埋め込み法(記述変数を増やすことで非マルコフ過程をマルコフ過程に変換する技巧)を用いることで,非線形ホークス過程をマルコフ場の理論に変換し,一般の非線形ホークス過程に対して場の理論としてのマスター方程式を導出した.このマスター方程式を解くことで,様々な非線形ホークス過程に対して解析解を導出した.本結果を論文としてまとめ,Physical Review Researchから出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は非線形ホークス過程の解の分類を行い,Physical Review Research誌から論文として出版した.非線形ホークス過程は非常に解析が難しいモデルであり,このモデルの解が体系的に理解できたことは大きな成果だと考える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は非線形ホークス過程の解析を体系的に行った.しかし,本研究は一般の非マルコフ過程の基盤数理を構築することが目標であり,非線形ホークス過程という個別具体的なモデルを超えた解析手法を開発する必要がある.よって,来年度は一般の非マルコフ過程に対する数理的道具,特にマスター方程式について研究する. 具体的には,一般の非マルコフ点過程(履歴に依存して将来のイベント発生が決まる確率過程)を取り扱うことを考えている.過去の履歴情報を,マルコフ埋め込み法を一般化することで,一般の非マルコフ点過程に適用可能なマスター方程式を導出し,更に漸近解を導出することを考えている.漸近解を導出する上で,微小ノイズ展開(例えばシステムサイズ展開と呼ばれるマルコフ過程で確立している手法)を発展させることを,現時点では一つの候補として想定している.
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