研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
22H04833
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
伊藤 光二 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (50302526)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミオシン / 分子モーター / アクチン / キラリティ / 自己組織化 / 集団運動 |
研究実績の概要 |
代表者はFアクチンの反時計方向運動を引き起こすショウジョウバエのミオシンID(DmID)およびシャジクモのミオシンXI(CcXIおよびCbXI-4)がFアクチン集合体であるアクチン・キラルリングを形成することを発見した。アクチン・キラルリングの大きさは細胞の大きさとほぼ同じであり、リング内ではリング幅あたり数百本のFアクチンが束化して反時計方向に運動していた。Fアクチンの集団運動を通しての自己組織化により形成されたアクチン・キラルリングは非常に強固・安定な構造であり,一度形成されると同じ場所で安定に存在した。本研究は細胞キラリティ形成の根源と考えられるアクチン・キラルリング形成・維持の分子機構解明を目的として研究を行った。 DmIDおよびCcXI, CbXI-4によるアクチン・キラルリング創出は下記1, 2の2つの分子機構に要素還元できるので、この2つの分子機構の解明を行った。 1. DmIDおよびCcXI, CbXI-4がFアクチンを一方向性に湾曲運動させる分子機構 2. 一方向性に湾曲運動したFアクチンがアクチン・キラルリングを形成する分子機構 1についてはミオシンのUpper 50k サブドメインとLower 50k サブドメインが重要であり、ここからFアクチンを一方向性に湾曲運動させる運動において、DmIDおよびCcXI, CbXI-4におけるアクチン結合が重要な働きをしていることが示唆された。2については、Fアクチンや微小管など繊維状物質の集団運動においてFアクチンが衝突したときに方向を揃える方向にシフトすることが知られている。実際の運動動画および、シミュレーションにより、アクチン・キラルリングを形成する分子機構のモデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「DmIDおよびCcXI, CbXI-4がFアクチンを一方向性に湾曲運動させる分子機構」について。それぞれ一方向に湾曲運動させないミオシンI, XIとサブドメイン置換した変異ミオシンを作製した結果、ミオシンのUpper 50k サブドメインとLower 50k サブドメインが重要であることがわかった。そこで、Upper 50k サブドメインとLower 50k サブドメインにある一方向性に湾曲運動に関与する領域候補として、4つのアクチン結合サイトをピックアップすることができた。 「一方向性に湾曲運動したFアクチンがアクチン・キラルリングを形成する分子機構」について。集団運動形成時の条件、動画解析の結果、一方向性に湾曲運動するFアクチンは集団運動の結果、容易にFアクチン・キラルリングを形成することがわかった。集団運動により形成されたFアクチン・キラルリングはリング幅あたりFアクチンが約300本並んでいた。また、その方向は90%が一致していた。さらにFアクチンや微小管など繊維状物質の集団運動においてFアクチンが衝突したときに方向を揃える方向にシフトする性質が知られている。この繊維状物質の性質をパラメーターとして用い、一方向性に湾曲運動させるFアクチンの集団運動についてミュレーション行った結果、繊維状物質のこの性質のみで、一方向性に湾曲運動させるFアクチンは集団運動の結果、アクチン・キラルが形成されることが示唆された。 以上のように、本研究は「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
「DmIDおよびCcXI, CbXI-4がFアクチンを一方向性に湾曲運動させる分子機構」について。ミオシンのUpper 50k サブドメインとLower 50k サブドメインに存在する、loop2, loop3, loop4, CM loop, Helix-turn-helixの4つのアクチン結合サイトに変異を与える実験を行い、どのアクチン結合サイトがFアクチンを一方向性に湾曲運動させるために必用であるかを明らかにする。さらに、その明らかにしたアクチン結合サイトについて、どのアミノ酸がFアクチンを一方向性に湾曲運動させるために重要かを変異実験により解き明かす。Fアクチンを一方向性に湾曲運動させる原因部分をアミノ酸レベルで解明後、Fアクチンをまっすぐ動かすミオシンのアクチン結合領域をFアクチンを一方向性に湾曲運動させる原因アミノ酸に改変し、Fアクチンを一方向性に湾曲運動させるかとうか検証する。 さらに、DmIDとFアクチンとの複合体との高解像度クライオ電子顕微鏡観察を行なう。変異実験の結果とクライオ電子顕微鏡の観察結果をあわせて、「Fアクチンを一方向性に湾曲運動させる分子機構」についてのモデルを提唱する。
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