研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
22H04843
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山城 佐和子 京都大学, 生命科学研究科, 講師 (00624347)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | shear stress / 蛍光1分子顕微鏡 / 細胞膜分子 / メカノバイオロジー / 定量生物学 / アクチン細胞骨格 |
研究実績の概要 |
血管内皮において、血流に起因するずり応力 (shear stress) の方向性は重要な血流刺激と考えられているが、内皮細胞がどのようにずり応力方向を感知するか、についてはほとんど不明であり、重要な未解決課題の一つである。これまで、ずり応力メカノセンサーについては、細胞膜でのイオンチャネルや受容体の活性化に焦点が当てられてきた。一方、細胞膜は流動性に富んでおり、細胞外流が細胞膜で分子を運搬し、細胞内に流れ情報を伝達している可能性がある。本研究では、この仮説を検証した結果、生理的強度 (10-20 dyn/cm2) のずり応力の負荷により、細胞膜タンパク質が下流方向に集積する濃度勾配形成現象を見出した。ずり応力が誘導する細胞膜分子勾配形成は、力学的情報を空間情報に変換して細胞内に極性を持った情報伝達を実現し、ずり応力の流れ方向感知に働く可能性がある。本研究ではさらに、ずり応力負荷によって勾配形成が誘導される細胞膜タンパク質についてずり応力下での蛍光1分子イメージング法を確立した。1分子挙動解析の結果、ずり応力負荷下では細胞膜タンパク質の拡散挙動に流れ方向のバイアスが加わることが明らかとなった。また、ずり応力に起因する細胞膜タンパク質勾配形成は、GPIアンカー型タンパク質、接着分子、受容体で観察されることと、ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) でも起こることを明らかにした。これらの研究成果は、第74回細胞生物学会(2022年6月)等の国内学会において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で見出した細胞外流(ずり応力)に起因する細胞膜タンパク質の勾配配置形成は、これまで報告のない新規の現象である。また、本研究で確立したずり応力下での細胞膜分子の高精度1分子イメージングもこれまでほとんど報告がなく、ずり応力の力覚応答に伴う分子動態を最も高精度に定量解析できる画期的な新技術である。これらの理由から、本研究成果は、血流等の細胞外流に対する細胞応答解明に大きな進展をもたらすことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主に、アクチンダイナミクスが力学的情報メモリに関与する可能性の検証を進める。アクチン細胞骨格は力学刺激を受ける細胞表層や接着構造を形成する主要な構造体であり、重合・脱重合を伴う動的な構造体であることから、力学情報メモリに関与する可能性がある。研究代表者が開発した蛍光標識アクチンを用いた電気穿孔法利用型蛍光単分子スペックル顕微鏡法を駆使し、ずり応力の負荷パターンや方向の変更にアクチン動態がどのように反応するか、明らかにする。また、これまでの研究成果について国際学術誌に論文を投稿する。 さらに本年度は第75回日本細胞生物学会大会において、研究代表者がオーガナイザーとしてシンポジウム「メカノバイオロジー研究で迫る細胞と微小環境の相互作用」を行う予定である。先鋭の研究者達との議論や情報交換を活用し、研究を進める予定である。
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