生体分子モーターはゆらぎの中から効率よくエネルギーを利用すると言われてきたが、その定量的な理解には至っていない。一方これまでの研究で、分子モーター・キネシンは入力された多くの自由エネルギーを分子の内部で散逸していると示唆された。ゆらぎの中から仕事を取り出す分子モーターの効率の理解には、情報物理学の視点が必要である。そこで本研究では、これまでに構築した現象論的なキネシンの数理モデルをさらに拡張し、頭部間コミュニケーションを導入したキネシンの数理モデルを構築することで、分子内部での情報の流れの可視化を目指して研究を行ってきた。 これまでの研究で、キネシンの二つの頭部を独立に動かすように拡張されたキネシンの数理モデルを構築し、さらにそのパラメータ取得に必要となる蛍光1分子計測系の立ち上げを行った。まずは単純な蛍光一分子計測系を構築して1分子キネシンの無負荷時の運動パラメータの定量を行いつつ、並行して、これまでに用いていたキネシン(kunesin-1)とは別種のキネシンであるKIF1Aのダイマーコンストラクトを精製・変異導入を行い、その運動観察も行った。令和5年度には研究実施機関の異動があったものの、蛍光1分子計測系に2色同時計測系を導入し、より詳細な1分子解析を可能とした。加えてKIF1Aの光ピンセット計測も行い、外力と速度関係について予備的な結果も得られた。これらの複数種類のキネシンを用いることで、どのような違いが機能に反映されているのか、あるいはキネシンの種類を超えた普遍的な仕組みが存在するのかといった新たな問題へのアプローチを可能とした。 アウトプットとしては1件の国際会議での講演と、3件の国内学会発表に加えて、共同世話人として生体運動研究合同班会議の開催も行った。また、領域内共同研究として国際原著論文を1報発表した。
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