研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
22H04851
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤原 慶 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (20580989)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ソフトマター / 時空間パターン / 細胞サイズ空間 / 反応拡散系 / 合成生物学 |
研究実績の概要 |
細胞内反応拡散波(iRDs)は、化学反応と分子拡散の共役によって創発され、細胞内での分子の位置情報を規定する。最近の研究により、iRDs自体が細胞内の情報を力学に変換する機構である証拠が集まってきているが、その実態は未解明である。本研究では、申請者らが構築したiRDsの1つであるMin波を安定的に人工細胞内で発生させる系を用い、化学エネルギーによって形成されるiRDsが細胞サイズの空間で情報と力学の変換を担うメカニズムと効率を理解することを目的としている。 本研究の開始段階で、思いがけず細胞内の位置情報を決定する反応拡散波であるMin波がATPだけでなくdATPも利用して発生することが可能であることを見出した。そのため、本年度前半はその解析に注力した。反応論的な解析をしたところ、ATPとdATPいずれの場合も反応サイクルに相当する加水分解が同程度であり、Min波を形成するエネルギーは同程度であると見積もられた。一方、ATPと比較してdATPでは半分の周期になるように、パターンの特徴が異なるため、エネルギー散逸の仕方が異なることが示唆された。両者を混合することで段階的にMin波の周期を制御できたことから、位置形成における新規手法として論文にまとめ、ACS Nano誌に報告した。力への変換を検証するため、この両者の系において、Min波が示す周辺分子を輸送させる能力を検証したところ、ATPとdATPの周期の違いに合わせて周辺分子の輸送速度も変化することが明らかになった。これらの結果は、エネルギー散逸の仕方により位置情報が持つ力に差が生じる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では項目として、(1)Min波の構成要素であるMinDが消費する化学エネルギー(ATP)がどう分配されているかに着目し、細胞内反応拡散波に内在する情報と力学への変換効率を理解する、(2)Min波と細胞骨格タンパク質FtsZの相互制御に着目して情報と力学の変換を理解する、(3)申請者らが見出したMin波の細胞サイズスケーリング効果とその性質、移動波と局在波の制御系を利用し、空間スケールや波のモードに応じた情報-力学変換効率の理解を行う、の3つを設定した。(1)に関してはATPとdATPにおける散逸構造の違いから一定の理解を行うことができた。(2)に関しても、Min波と細胞骨格タンパク質FtsZの相互制御に着目した研究は系を立ち上げるに至っている。(3)は空間スケールと情報-力学変換効率に関係がありそうなデータまでは得ている。思いがけない発見から予定通りの計画とはずれが生じたが、目的達成を軸とすると着実に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の(2)と(3)を中心に研究を進める。特に、細胞骨格や膜上混雑によるモードや波の性質の変化、空間サイズにおける分子輸送効果の違いを理解することを軸に検証を進める。
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