日常会話で我々が対話を継続する動機は多様であり,異なる動機で特徴づけられる「対話モード」の理解は,人間の言語コミュニケーションの心理・認知科学研究において重要な課題である.対話知能システムやロボットの開発においても,ユーザである人間の対話モードによって,目指すべき対話の在り方が変わるため,システムの設計思想や評価指標が違ってくる.しかし,主要な対話モードの概念は確立しておらず,その背景認知・脳過程も不明である.本研究では,日常会話における主要な対話モードを抽出・定義し,各モードとその対話動機の脳基盤解明を目指した. 令和4年度に2つのオンライン調査を行い,主要な対話モードの抽出と定義を行なった.対話動機に基づきRelief(悩みや不安を相手と共有しストレスから解放される対話),Novelty(知らない相手との,あるいは知らないテーマについての対話),Comfort(日常的な笑える話題についての対話),Interest(自身のあるいは共通した趣味や好きな物事についての対話)の4つの対話モードを抽出した. 今年度は各モードやその対話動機を特徴づける脳基盤を明らかにするために,50名の若年健常成人を対象に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳計測実験を行い,動画中のアバターとの疑似対話を行っている間の脳活動を計測した.各試行で,参加者の指定質問に対するアバターの返答に対し,参加者に自由に返答させた.課題遂行中の時系列脳活動変化について,各試行の返答フェーズにおける脳反応の大きさを分析した結果,各モードやその対話動機を特徴づける脳基盤として,異なる機能(社会認知・感情・注意・推論)領野の脳反応(主に低下)を明らかにした. 本知見は,対話知能システムやロボットの開発において,ユーザの対話モードに最適化したシステムの設計思想や評価指標の設定への活用が期待される
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