研究実績の概要 |
東京都内の地下水から一カ月に一度サンプリングを行ない、本環境に生息する微生物からDNAを抽出していた。抽出したDNAの次世代シーケンス(NGS)データは以前にも取得していたが、本年度はさらにOxford Nanopore社の最新バージョンのフローセルを用いて、ロングリードのNGSデータを約40GB追加した。これらのデータから独自に開発したメタゲノム解析パイプラインにより、高品質なMetagenome-assembled genome(MAG)を1,000個以上作成した。系統プレイスメントにより、そのうちの40%以上はCPR/DPANNに属することが判明した。 作成したMAGに対してNGSデータのマッピングを行い、微生物叢におけるそれぞれのMAG相対存在量を変動を推定した。一年間を通して十分な量のNGSデータがマッピングされるMAGのみを使って、相対存在量に基づく階層クラスタリングを行った。クラスタリングの結果から、環境変動が少ないと考えられる地下環境でも微生物叢の変動には年周期が存在することが示唆された。さらに同データをk-means clusteringに供したところ、これらのMAGは4つのクラスターに分かれることが示された。主成分解析により、4つのクラスターはそれぞれ(i)一年間を通して存在量が多い、(ii)一年間を通して存在量が少ない、(iii)冬から春に多い、(iv)夏から秋に多い、と解釈することができた。それぞれのクラスターの最適増殖温度を比較したところ、冬から春に多いクラスターが最も低かった。また同クラスターには脂肪酸に不飽和結合を導入する酵素をコードする遺伝子が、他のクラスターと比べて有意に多く存在していた。不飽和脂肪酸は低温下で細胞膜の流動性を維持するのに重要な役割を果たすので、これらの結果は整合的であると考えられる。
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