研究領域 | 超地球生命体を解き明かすポストコッホ機能生態学 |
研究課題/領域番号 |
22H04886
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
岡野 憲司 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (40623335)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 菌叢改変 / ペプチド核酸 / 細胞膜透過ペプチド |
研究実績の概要 |
土壌に棲息する微生物たちは、各々の相互作用により巨大なエコシステムを形成し、地球の元素循環や植物の生育を促進する。多くの微生物間相互作用は、微生物の増殖に対して正または負に作用するため、菌叢微生物の増殖連関を知ることが、生態系の理解と制御の第一歩となる。そこで、本申請課題では、菌叢の標的微生物のみを不活化させる菌叢改変技術を開発し、標的微生物の不活化に伴って増殖を変化させる微生物(群)を明らかとする。具体的には、標的微生物の必須遺伝子mRNAに結合し細胞死を誘導するアンチセンスペプチド核酸(PNA)に、細胞膜の透過作用のあるペプチド(CPP)を付加した複合材料(CPP-PNA)を合成する。これを菌叢に導入することで、減算的に微生物菌叢を改変する技術を開発する。本技術を本研究領域が有する試験圃場由来の土壌菌叢に適用することで、菌叢微生物の増殖連関を体系的に解析し、菌叢中のどの微生物間に相互作用が存在するのかを浮き彫りにしていく。 本年度はまずCPP-PNAを用いることで、菌叢編集が可能であるというコンセプトを実証するために、Escherichia coli、Pseudomonas putida、Pseudomonas fluorescens、Lactiplantibacillus plantarumの4菌からなる人工菌叢の改変を試みた。E. coliおよびP. putidaを標的とするCPP-PNAを用いた結果、これらの微生物の生育を抑制することができた。また、P. putidaの生育抑制に伴いP. flutorescensの増殖が向上し、L. plantarumの増殖が抑制されることが分かった。従って、本技術が微生物の増殖連関を解析する手法としても有効であることが示され、実菌叢に対しての利用への期待が持てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
E. coliの増殖抑制を行うPNAとして脂肪酸合成に関わる必須遺伝子であるacpPを、P. putidaの増殖抑制を行うPNAとして細胞分裂に関わる必須遺伝子であるftsZを標的するPNAをデザインした。PNAは開始コドンやリボソーム結合部位に結合する場合のみ高い増殖抑制効果を発揮することから、4菌が有するいずれのORF中の開始コドンやリボソーム結合部位に結合しない配列をデザインした。また、CPPとしては様々な菌への導入効率が高いKFFKFFKFFK配列を使用し、固相合成によりCPP-PNAを合成した。 合成したCPP-PNAの特異性を確認するため、各CPP-PNAを4菌の培養液に添加したところ、標的微生物に対して高い増殖抑制効果を確認することができた。続いて合成したCPP-PNAを4菌の共培養系に添加し、増殖抑制効果を評価した。E. coliを標的としたCPP-PNAを添加した場合、E. coliの増殖抑制が見られ、他の菌の増殖には影響を及ぼさなかった。一方、P. putidaを標的とするCPP-PNAを添加した場合、P. putidaの増殖を抑制すると同時に、P. fluorescensの増殖の向上と、L. plantarumの増殖の抑制が観測された。実際にP. putidaとP. fluorescens、P. putidaとL. plantarumの2菌共培養系と単培養系を比較したところ、確かにP. putidaがP. fluorescensの増殖を抑制し、L. plantarumの増殖を向上させることが分かった。従って、CPP-PNAを用いた菌叢改変技術は、減算的な菌叢改変手法としてのみならず、微生物の増殖連関を解析する手法としても有効であることが示され、実菌叢に対しての利用への期待が持てた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は開発した菌叢改変技術を実菌叢に適用し、微生物間の増殖連関の解析を行っている。それに先駆け実菌叢中に添加したE. coliやP. putidaの増殖を選択的に抑制できるかどうかを検討する。大学構内より土壌を採取し、E. coliやP. putida 状態で菌叢培養を行う。本培養系にE. coliやP. putidaの増殖抑制を誘導するCPP-PNAを添加し培養を行い、菌叢よりメタゲノム抽出を行い、E. coliやP. putidaを特異的に検出するプライマーを用いて定量PCRを行うことで、増殖抑制を確認する。PNAの効果は菌株レベルで異なるため、増殖抑制が不十分な場合はCPP-PNAの添加量を変えて実験を行う。 次にCPP-PNAを用いた増殖連関解析の手法を確立する。メタゲノムより16S rDNAをPCR増幅し、次世代シーケンス(NGS)解析に供することで、CPP-PNA添加による群集構造の変化を確認する。E. coliやP. putida以外にCPP-PNAの添加によって増殖が促進・抑制された微生物は(1) E. coliやP. putidaとの間に増殖連関がある、あるいは(2)必須遺伝子のmRNAに偶然CPP-PNAとの相補配列があり、増殖抑制が生じたと考えられる。従って、E. coliやP. putidaの複数の必須遺伝子についてPNAを作製し、いずれのCPP-PNAを投与した時も、E. coliやP. putidaの増殖抑制に連動して増殖の促進・抑制を生じる菌株が、真にE. coliやP. putidaと増殖連関があると言える。また、これらの菌株がカルチャーコレクションで入手できる場合は、E. coliやP. putidaとの共培養により増殖変動が生じるかを確認し、増殖連関解析の結果をより確かなものとする。
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