培地上でTer331株とA. nigerを共培養させ,A. niger菌糸の様子を顕微鏡で観察した。観察した現象に,collimonin類と他の二次代謝産物が関与するのかどうかを検証するため,collimonin欠損株とQS欠損株を使った。funI欠損株株は,pK18mobsacBベクターを用いた遺伝子欠損により作製した。野生株と同じように,これらの欠損株とA. nigerの共培養を行い,A. niger菌糸を観察した。QS制御下にある二次代謝産物が抗真菌性に重要であることが示唆されたことから,Ter331株とfunI欠損株の二次代謝プロファイルを比較して抗真菌性化合物の候補を探索した。A. niger黄色色素の生合成遺伝子候補を見出し,CRISPR-Cas9法でその破壊株を作製した。そして,破壊株における色素産生能を評価した。 A. nigerとTer331株を対峙培養すると,A. nigerの生育はコントロールより阻害され,菌糸先端では激しい分岐が確認された。colA欠損株と対峙した場合,Ter331株のときに見られたA. nigerの生育阻害は一部緩和し,A. nigerの菌糸分岐は観察されなくなった。さらに,funI欠損株はA. nigerに対し,生育阻害と菌糸分岐のいずれの作用も示さなかった。よって,A. nigerの菌糸分岐にはcollimonin類が,生育阻害にはcollimonin類とQS制御下にある未知同定の二次代謝産物が関与する可能性が示唆された。Ter331株とfunI欠損株の二次代謝プロファイルを比較すると,未知リポペプチドのピークが欠損株で消失していた。したがって,これらの化合物が抗真菌性に寄与していると考えられた。A. niger色素の生合成酵素と予想された遺伝子を破壊すると,色素誘導条件下で培養してもコロニーの黄色化は起こらず,LC/MS分析でも該当化合物は検出されなかった。
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