前年度に行った予備解析では、親の青年期までの社会的相互作用経験(養育者との関係、友人関係)と子の他者関係のあり方(友人と親しくなることを躊躇う傾向)の相関関係が確認されていた。この結果を受けて2023年度は、この関係性の神経基盤の解明を目的とした脳画像解析を行った。 まず、母親が青年期に友人と深く関わり合っていた場合、その子は友人と親しくなることを躊躇いにくいという関係性が確認され、「友人との関わり方の世代間伝達」の存在が改めて示唆された。次に、友人と深く関わっていた母親は、現在の家族の情緒的絆を強く認識しやすい(自分の家族はまとまりがあると感じやすい)ことが確認された。また、母親が家族の情緒的絆を強く認識しているほど、子の右扁桃体と右側坐核の体積が小さいことが明らかとなった。子の扁桃体・側坐核の体積と友人と親しくなることへの躊躇いには有意な関連が見られなかった。しかし、扁桃体と機能的繋がりを持つ楔前部の皮質厚と、子における友人と親しくなることへの躊躇いには弱いながらも有意な相関が確認された。子の扁桃体と側坐核の体積は母親の友人関係と直接関連しないため、母親が認知する家族の情緒的絆による媒介関係は成立していない。この結果から「母親の青年期までの友人関係の経験は、子の脳発達に寄与する環境要因の構築に関わる」と考えられる。ここまでの結果の一部を、ヒト脳イメージング研究会にて発表した。 2023年度は追加のデータ取得も進み、当初の研究計画であった親子の脳の類似性の検討についても予備的な結果を得ることができた。また、本研究の母体となるプロジェクト『TRIO study(日本語名:家族の脳科学)』のプロトコル論文を発表した。ここまでに得られたデータと知見を後期の公募研究に繋げ、子の「その人らしさ」の形成における親の人生経験の役割について、更に具体的な示唆を見出していきたい。
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