棋士は脳内に将棋盤をイメージし操作する(以降「脳内盤」)。将棋という明確な法則に従う一様の世界に対して、熟達した棋士の脳内盤の在り方は多様であり、脳内盤には棋士が熟達過程で相互作用してきた将棋という世界の法則と物語が内在化されている。本研究ではこのような特徴を持つ将棋と脳内盤に着目し、棋士の中にある熟達した脳内盤の表象と多様性を明らかにし、その多様性を生み出す背景要因を探る。研究は3つのフェイズからなる。研究1では脳内盤メトリクスを作成し、オンライン調査により棋士の脳内盤の表象と多様性を定量的かつ体系的に解明する。研究2では棋士のイメージ化に関連する認知特性の個人差を認知心理学実験により検討する。研究3ではインタビュー調査により棋士それぞれの固有の脳内盤が育まれた熟達化過程、来歴、経験を探る。 2023年度はアマチュア高段プレイヤーを対象に認知実験および脳内盤に関するインタビュー調査を行った。その結果、熟達した棋士においてもさまざまなレベルでの個人差や多様性があることが明らかとなった。また一般の人々の脳内イメージ鮮明度を測定する手法の開発を実施した。一方で、生成AIを用いた盤面画像の学習により、人工知能における脳内盤の生成に関する研究構想を進めた。 2022年度までの研究成果について、第87回心理学会大会でポスター発表を行い、日本イメージ心理学会第24回大会で招待講演および口頭発表を行った。また2度の領域会議において、脳内盤の多様性に関する発表を行い議論を深めた。心理学会の発表については特別優秀発表賞を受賞した。
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