地球温暖化と水利用の変化により様々な水に関する問題が顕在化し、今後さらなる深刻化が予測される現代において、水と社会の相互関係を理解する必要がある。本研究では、日本における水害や渇水と社会の相互関係を歴史的に紐解くことを可能にするデータセットを開発することを目的とする。 研究2年目かつ最終年度である令和5年度は、観測演算子、実現可能性の検討を行った。観測演算子は、観測情報と第一推定値をつなぐデータ同化の一要素である。古日記情報をデータ同化に活用するにあたり、天気区分という質的情報を何らかの形で数値化する必要がある。本研究では、各天気区分の有無を量子化することで観測演算子とした。このデータ同化システムを用いて古気候復元をする前に、現在気候に本システムを適用し評価を行った。地球温暖化に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)を背景アンサンブル、AMeDASから作成された天気区分を観測値として日々の天気の復元を行ったところ、降水量の空間分布や強度に関して驚くべき精度で復元することができた。必要なアンサンブル数や観測数についても調査を行ったが、両者とも必要となる数はそれほど多くない事も明らかになった。 本研究は、江戸期における月平均の水文量を復元することを目的としていたが、実際の復元を完了することはできなかった。一方で、日スケールという革新的細かさで気象を復元する手法を完成することができた点は特筆に値する。これにより、今後の歴史気候学の大きな進展が期待できる。
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