研究領域 | ゆらぎの場としての水循環システムの動態的解明による水共生学の創生 |
研究課題/領域番号 |
22H05233
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小谷 亜由美 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (80447242)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 生態系利用 / 水利用 / 環境変動 / 生業 / シベリア |
研究実績の概要 |
本研究は、環境変動下にある生態系の水・物質循環と人間活動の相互作用の理解を目的として、東シベリアやモンゴルの森林・草原生態系を利用する生業を、生態系の水・物質循環の要素としてとらえて再評価し、水の過不足にどのように対応してきたかを明らかにする。 2022年度は、対象地域の森林-草地生態系と生業に関する文献等から植物・水利用に関する情報を収集・整理した。民族誌研究文献やインターネットで利用可能なアーカイブサイト、会議プロシーディングスから、20世紀後半を中心に土地利用の季節変化に関する情報を収集した。季節的な移動や水利用設備、草地周辺の森林管理により飼料と水を確保してきた東シベリアの家畜飼育における、社会体制の変化とともに、牧草の生育や干し草生産にかかわる季節的な降水の年々変動への対応が重要である。このような地域環境と季節変化に対応する生業文化に関する情報は、現地で発行された一般向けの地理書や植物図鑑、百科事典、児童書などに記載がみられ、現地の人々の基本的な認識や重視することを理解する一助となると考えられ、学術書とは異なる視点の情報と位置づけられる。これらの情報の中から、時間と場所が特定できるものについては、降水量や災害記録との対応づけ、空間情報としてまとめることを試みた。さらに活字媒体以外に、生態系と人間活動にかかわる情報の一つとして、映像の利用可能性を検討した。1980年代から2000年代のモンゴルの遊牧に関するテレビ番組映像を時空間データとして解析することで、社会の変化や環境変動と人々の応答を抽出し、フィールドワークに基づく民族誌研究や社会統計解析を補完する情報としての映像データの有用性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象地域の森林-草地生態系の情報収集に関して、2022年度に計画していた文献やインターネットで得られるデータを収集は順調に進められた。当初に計画していた共同研究機関や図書館などで文献資料等を入手することを目的とするロシア・ヤクーツクへの渡航は、依然として困難であることから、対象地域をシベリアを中心とした寒冷森林地域から低緯度側のステップ地域に広げて情報収集を行った。モンゴルでの共同研究者は探索中でで現地調査ができる状況には至っていないが,日本では入手しにくい植物利用や自然環境に関するモンゴルの出版物を現地の書店や博物館にて収集した。さらに、生態系と人間活動にかかわる情報の一つとして映像の利用可能性を検討し、モンゴルの遊牧に関するテレビ番組映像を時空間データとして解析し、従来の研究方法との関係を議論した結果を流域圏学会誌に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
生態系の利用と水・物質循環に関する情報に基づきそれぞれの生業について、資源の採取と廃棄(水の場合は取水と排水)に対応するプロセスを抽出し、これらに伴う物質フロー(水,炭素,栄養塩を検討)を対応付けることで、気候条件、人間活動の有無、生業の種類に対応する循環の模式図を作成する。 また民族誌文献などから、数値的に評価可能な記述を抽出し、その利用可能性を検討する。これにより、過去100年程度の気候環境変動と生態系利用の変遷を整理するとともに、他地域で得られた結果と比較し、気候変動と生態系利用の関係にみられる共通性と対象地域の特異性をあきらかにする。とくに、申請時に計画していたロシアでの現地調査は難しい見込みなので、対象地域をシベリアを中心とした寒冷森林地域から低緯度側のステップ地域に広げて情報収集を行い、半大陸規模の環境傾度を基とする比較に展開する。 本研究課題のとりまとめとして、水環境の変動と生業の適応の議論を進める。水の過不足をどう凌いできたのか(凌げなかった場合は何が起こったのか)?対象地域での水環境の変動として、降水の年々変動がもたらす干ばつ時に水・生態系利用をどのように対応させてきたのかを明らかにする。水の利用は、目的に応じた確保-配分(一時的貯蓄)-排水の機能からなるが、確保する水の増減や季節性に応じた調整により、安定した水資源の利用が可能となる。本研究で整理された物質循環のパターンが、水環境の変動に対してどの程度まで維持されるのか、これまでにどの程度の変動が起こりえたのかを、水利用方法や生業の事例から検討する。
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