本研究は、環境変動下にある生態系の水・物質循環と人間活動の相互作用の理解を目的として、東シベリアやモンゴルの森林・草原生態系を利用する生業において、水の過不足にどのように対応してきたかを明らかにすることを目指す。このために,人文社会科学と地球科学の異なる手法によるデータ,一般書や映像など多様な媒体を統合的に利用する方法を検討した。当初に計画していた共同研究機関や図書館などで文献資料等を入手することを目的とするロシア・ヤクーツクへの渡航は、依然として困難であることから、対象地域をシベリアを中心とした寒冷森林地域から森林及び永久凍土の南端地域(モンゴルの森林ステップ境界域)に広げた。 2023年度は,対照的な森林草原景観として東シベリア(中央ヤク-チア)とモンゴル(森林ステップ)において,自然利用(牧畜など生業)と水環境との関わりを比較した。いずれも年降水量が数100mmと少なく,その年変動が大きい内陸性気候であること,20世紀において社会システムの変化を経ていることの共通点がある。対象地域の森林-草地生態系と生業に関する文献等から植物・水利用に関する情報を収集・整理した。民族誌研究文献や統計データ、インターネットで利用可能なアーカイブサイト、現地で発行された一般向けの地理書や植物図鑑、百科事典、地図帳から、20世紀後半を中心に植物・水利用の季節変化に関する情報を収集した。対象地域の学術調査文献の情報を上記のような非学術情報で補うことで、2地域の生業における植物・水資源の確保について、気象・植生の季節変化、森林をはじめとする資源管理と利用、生業に関する年間作業、気象・水災害への対応を比較した。
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