研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
22H05247
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 恒也 京都大学, 理学研究科, 准教授 (50733078)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 開放量子系 / 強相関効果 / 非エルミートトポロジー / 非平衡現象 |
研究実績の概要 |
本年度の成果は以下の通りである。(i)点ギャップトポロジーの分類学に対する強相関効果、(ii)光メタマテリアルにおける対称性に保護された例外円、(iii)平衡状態の近藤絶縁体におけるZ2表皮効果 (i)の「点ギャップトポロジーの分類学に対する強相関効果」では非エルミート系に特有の点ギャップトポロジーの分類学が強相関効果によって変更を受ける、分類学のリダクションを世界に先駆けて提案した。具体的には多体の非エルミートハミルトニアンのトポロジカル不変量を導入し、相互作用がある場合と無い場合で許されるトポロジカルな構造が異なることから、分類学のリダクションを明らかにした。さらに、非エルミート系特有の例外点に対する強相関効果を解析し、例外点の中には相互作用がある場合にも安定なものと、相互作用が無い場合にのみ安定なものの二種類が存在することを解明した[T. Yoshida and Y. Hatsugai PRB (2023)]。また、非エルミート表皮効果の相互作用に対する不安定性を数値的に実証した。 (ii)の「光メタマテリアルにおける対称性に保護された例外円」では、負の屈折率物質を利用することで、系が本質的に一般化固有値問題で記述される系を理論的に解析し、系がエルミート行列で記述されることにも関わらず、非エルミートバンド構造がみられ、例外円が発現することを明らかにした[T. Isobe et al., arXiv (2022)]。 (iii)の「平衡状態の近藤絶縁体におけるZ2表皮効果」では、重い電子系の典型例である近藤絶縁体において準粒子ダンピングが誘起する非エルミートトポロジカル現象を探索した。重い電子系において重要な効果であるスピン軌道相互作用と強相関効果を非摂動的に解析することで、多体ハミルトニアンの対称性に保護されたZ2表皮効果が起きることを数値的に実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、非エルミート系に固有の点ギャップトポロジーに対する強相関効果を解析し、分類学のリダクションや、強相関効果に対する例外点の安定性を解明した。これらの成果は当初計画していたものである。 以上の成果に加え、本年度は一般化固有値問題という新しい視点から、トポロジカルバンド理論を見直し、創発的対称性に保護された例外円という新しいタイプの例外点を提案した。さらに、負の屈折率物質に着目することで、光メタマテリアルにおいて上記の例外円が見られることを数値的にシミュレーションした。 また、平衡状態の近藤絶縁体における、準粒子ダンピングに起因した非エルミートトポロジーを解析し、スピン軌道相互作用と強相関効果に起因して、Z2表皮効果が見られることを動的平均場理論を活用し、実証した。この表皮効果のトポロジカルな構造は多体の時間反転対称性に保護されていることも明らかにした。 以上のように計画当初想定していた結果に加えて成果をあげることができた。このことから、当初の想定以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得た強相関系の非エルミートトポロジーの知見をもとに今後は以下の問題に取り組みたい。(i)強相関開放量子系の非エルミートトポロジーとダイナミクス (ii)強相関系における新規非エルミート表皮効果の探索。 (i)の「強相関開放量子系の非エルミートトポロジーとダイナミクス」では多体のリウビリアンのトポロジカルな構造を解析し、それがどのような動的性質に反映されるか明らかにしたい。特に、これまでの研究では量子ジャンプを無視した場合の有効ハミルトニアンの解析が中心であり、量子ジャンプが起きる場合のダイナミクスの議論を明らかにしたい。 (ii)の「強相関系における新規非エルミート表皮効果の探索」では、多体ハミルトニアンを解析し、新規なトポロジカル現象を探索したい。特に、本年度の研究では、強相関効果が非エルミート表皮効果を破壊することは明らかにできたが、強相関効果に誘起された新規な非エルミート表皮効果は未だ十分に探索されていない。今後は、強相関効果と非エルミート性が本質的に絡み合った新しい表皮効果の探索に挑戦したい。
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