研究実績の概要 |
本研究は,現代宇宙論の根幹をなすインフレーション宇宙モデルの量子情報論的側面の理 解を目的とした.量子場であるインフラトン場により引き起こされる宇宙の加速膨張により,インフラトン場自身の真空ゆらぎの波長が引き伸ばされ古典ゆらぎが生成される.このゆらぎはのちに宇宙の大規模構造を形成するための種となる.このシナリオにおいて,特に「量子ゆらぎの古典化」の側面に着目し以下の3つの項目について研究を行った. (1)量子もつれと量子ゆらぎの古典性 [1]: de Sitter 時空上の量子スカラー場系において導入した空間的局所モードAB間の量子もつれの振る舞いを,純粋化パートナーモードを用いて解析した.初期に量子もつれ状態にある2体系ABはde Sitter膨張によって量子もつれを持たない分離状態に変化する.この振る舞いを理解するため,AB に対するパートナーモ ードCDを構成し,AB 間の量子相関(内部相関)とAB-CD間の量子相関(外部相関)の間のモノガミー関係が成立することを証明した.(2)インフレーション宇宙における情報量の振る舞い:インフレーション宇宙を定性的に再現する量子ビットモデルを用意し情報量の振る舞いを解析した.2つのエントロピー(Shannon, von Neuman)の時間発展の振る舞いを用いて, インフレーション宇宙における情報量の意味さらにはde Sitter時空におけるエントロピー・ バウンドの問題との関係を議論した.論文は現在準備中である. (3)量子ホール系を用いた「量子ゆらぎの古典化実験」:時間的に形状変化するエッジを持つ量子ホール系を用いた擬似膨張宇宙系での粒子生成並びにHawking輻射の理論評価を行った.量子もつれの測定が可能となれば「古典化実験」が実現できることになる.[2]
[1] Y. Nambu and K. Yamaguchi, Phys. Rev. D 108, 045002(2023). [2] Y. Nambu and M. Hotta, Phys. Rev. D 085002 (2023).
|