研究実績の概要 |
超弦理論は、自然界に存在する4つの力である、電磁気力、弱い力、強い力、重力を統一的に記述できる究極理論の有力な候補の一つとして目されている。しかし、この超弦理論は摂動論的にしか定義されておらず、その非摂動論的な定式化は現在も研究が続いている。 非摂動論的な定式化の候補として、Banks, Fischler, Shenker, Susskindによって提唱された行列模型がある。この模型は4人の著者の頭文字をとってBFSS行列模型とよばれている。この行列模型のポテンシャルには平坦方向が存在するため、力学的な自由度の膜(メンブレイン)が無限に伸びていく不安定性(メンブレイン不安定性)が存在する。 本研究では、このメンブレイン不安定性とカオス的な崩壊の関係を議論した。特に、膜の運動を決める初期値空間に現れるフラクタル構造を明らかにし、そのフラクタル次元を計算した。今後、このフラクタル次元と膜のダイナミクスの関係について解明したい。 また、カオスに関連した別の研究課題として、AdS_5xS^5上の超弦理論におけるペンローズ極限と可積分性の関係について調べた。この理論のペンローズ極限を取りきると質量項をもつ自由場の理論となり、厳密に解けることが知られている。また、AdS_5xS^5上の超弦理論それ自体が可積分であることも知られている。よって、我々の研究以前は、このペンローズ極限の補正項を入れても可積分性を保つと信じられていたが、実際には補正項によって可積分性が破れることを、ポアンカレ切断とリヤプノフ指数を計算することによって具体的に示した。
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