研究実績の概要 |
超弦理論における基本的な自由度は一次元的な拡がりをもつ「弦」である。この弦の運動が世界面上の共形対称性と整合的であるためには、弦が運動する時空が超重力理論の解である必要がある。そして、この重力解には無数の選び方がある。 最も簡単な場合は平坦なMinkowski時空であるが、一般には、ゼロでない曲率を持つ曲がった時空になる。曲がった時空の具体例として、超弦理論の研究において最もよく考えられるのは、負の定曲率を持つ反ド・ジッター(anti de Sitter, AdS)空間である。このAdS空間は、ゲージ理論と重力理論の双対性の実現例として知られるAdSCFT対応の研究において登場し、その空間中での弦の運動を解析することは極めて重要な研究課題の一つである。 AdS空間中の弦の運動は可積分であることが、先行研究によって知られている。その一方で、AdS空間の境界に端をもつ弦の運動は乱流的な振る舞いを示すことが報告されていた。この乱流的な振る舞いは可積分性と矛盾する結果に見えるため、その整合性について議論した。 わたしと共同研究者の石井貴昭氏(立教大)と村田佳樹氏(日大)の共同研究 [T. Ishii, K. Murata and K. Yoshida, JHEP 01 (2024) 073] により、AdS空間の境界に端を持つ弦の境界条件と可積分性の関係について議論した。その結果、可積分性を破る境界条件の場合には乱流的な振る舞いを示し、可積分性を保つ場合には乱流は発生しないことを、いくつかの具体例で確認した。
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