WC-Co超硬合金の機械的性質の向上を目的として,ハイエントロピー合金(HEA)を代替バインダーとして使用したWC-HEA超硬合金の材料開発を実施した.実験ではCrMnFeCoNi HEA粉末をバインダーとして使用し,マルチビームレーザ型指向性エネルギー堆積法(L-DED)によってWC-HEA超硬合金を造形した.WC-Co超硬合金粉末も比較のために使用した.造形試料は,主にWC,M2C,M6Cの3 種類の炭化物と2 相に分離したW含有量の異なるHEA相で構成されていることが明らかにされた.エネルギー分散型X線分光法(EDS)分析により,形成されたM2C,M6C炭化物とHEA相はW,Cr,Mn,Fe,Co,Ni の元素を含有していることが示された.WC-Co超硬合金粉末を使用した造形試料(硬度約800 HV)と比較して,100-250 Wのレーザ出力で加工したWC-HEA超硬合金造形試料では200 HV以上の高い硬度(硬度約1000 HV)を示した.これらの結果は,レーザ照射後に WC-Co 超硬合金では M6Cが形成されるのに対して,WC-HEA超硬合金ではM2Cが形成されることによるものであると考えられる.また,HEA相へのW元素の固溶による硬化の影響もあると考えられる.300 Wでは,WC-Co超硬合金造形試料においてもM2Cが形成されたため,WC-HEA超硬合金造形試料の硬度に近い値が得られた.
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