研究領域 | 超温度場材料創成学:巨大ポテンシャル勾配による原子配列制御が拓くネオ3Dプリント |
研究課題/領域番号 |
22H05281
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 飛鳥 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (90802603)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
|
キーワード | 超温度場 / 3Dプリント / 粉末床溶融結合法 / パーシステントホモロジー / データ科学 / Al-Si合金 / デンドライト組織 |
研究実績の概要 |
本研究では,金属3Dプリント中の超温度場(10^7 K/m以上の温度勾配を有する温度場)によって生じる微視組織の不均一性に着目している.金属3Dプリント中はレーザ照射による円柱状の溶融池が形成され,凝固が進行する.その際,凝固条件は凝固の進行とともに変化する.こうした非定常な凝固は,溶融池境界付近と内部での組織に不均一性をもたらす.加えて,こうした不均一性は材料の力学特性に影響を及ぼすことが知られている.そこで,本研究では,こうした微視組織の不均一性を表現する定量的な組織記述子をパーシステントホモロジーなど数理解析も活用しながら導出することを目指している. 本年度は,代表的な金属3Dプリント合金の一つである,Al-12Si合金を対象として溶融池内部と境界付近のα初晶とα/Si共晶からなるセル状組織をパーシステントホモロジーにより解析した.パーシステントホモロジーでは,組織内部の第二相のサイズや空間的な位置関係を定量化することができる.その結果,溶融池内部と境界付近では,境界付近の方がSi相の分布が短距離・長距離の両スケールにおいて疎であることが明らかとなった. 加えて,比較材料としてAl-12Si合金に熱処理を施した試料についても解析を行った.熱処理を施すことで上述のセル状組織が崩壊し,Si相が分散した組織へと推移する.そうした組織変化がパーシステント図上にも反映されることが分かった. 以上のように,パーシステントホモロジーによって,Al-12Si合金の超温度場特有の組織形態を定量化する指針を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,様々な条件で作製したAl-12Si合金の一般的な組織の記述子とパーシステントホモロジーによる組織記述子をそれぞれ計測・解析し,不均一組織記述子を導出することを目的として研究を行った.一般的な組織記述子に関しては問題なく取得できた.パーシステントホモロジーの解析についても,プログラムの実装,画像の前処理の最適化などを通して信頼性の高い解析を行うことができた.一方で,3Dプリント条件に伴う組織不均一性の変化は小さいことが分かった.そういった組織をパーシステントホモロジーで解析する前に,大きく組織の異なる材料の解析を行い,組織とパーシステント図の関係性を理解する必要性があると考えた.そこで,当初予定していなかった熱処理材の解析を行い,組織とパーシステント図の関係性を明らかにした. このように,当初予定していた解析とはやや異なる解析を行うこととなったが,それによって詳細に組織とパーシステント図の関係を理解できたため,概ね順調に研究は進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は熱処理材についても,溶融池内部と境界付近の組織をパーシステントホモロジーを用いて解析する.その解析結果と力学特性の関係を調査する.Al-12Si合金の引張試験では,引張方向と金属3Dプリントの造形方向が平行な場合と垂直な場合では引張延性に差が生じることが知られている.これは溶融池内部と境界付近の組織不均一性に起因する.また,熱処理を施すことで引張延性の異方性は緩和されることが知られており,熱処理に伴って組織不均一性が解消されることを示している.そこで,3Dプリントまま材と熱処理材について組織不均一性を解析し,引張延性の異方性との関係を調べることで,力学特性に直結する組織の不均一性を表す記述子を導出する. さらに,金属3Dプリント条件の異なる試料についても同様の解析を行い,金属3Dプリント条件と組織不均一性の関係を明らかにする.
|