南海トラフをはじめプレート境界の断層運動によっておこる巨大地震の発生メカニズムの解明は、地震災害リスクを検討する上で重要な課題となっている。これまでの研究により水と地震は密接に関連することが指摘されており、南海トラフのプレート境界地震発生帯に沿って高間隙水圧帯が観測されている。高間隙水圧の原因を明らかにするためには,水そのものの素性を化学的な手法により明らかにし、断層周辺の水の起源と移動経路を推定することが有効である。しかし、プレート境界型地震発生帯は科学掘削では到達できない深度にあるため、地震発生帯の水の化学的な情報を得るには別のアプローチが必要となる。そこで、本研究では宮崎県延岡市の延岡衝上断層に分布する石英脈中に存在する流体包有物に着目した。延岡衝上断層は南海トラフの地震性分岐断層深部の構造に類似しており、断層周辺に形成された石英脈中の流体包有物は高間隙水圧の原因となった水を閉じ込めている可能性がある。また、近年の分析技術の発達によりμLレベルの水で水素・酸素同位体比(δD-H2O・δ18O-H2O)を分析できるようになった。本研究は、最新の分析技術を用いて延岡衝上断層の石英脈流体包有物中の水のδD-H2O・δ18O-H2O、および石英の酸素同位体比を分析し、断層周辺の水の起源と移動経路を考察した。水のδD-H2O・δ18O-H2Oは、石英脈をステンレス製の破砕器に導入し、水蒸気下で破砕し、流体包有物中の水を抽出し、水蒸気キャリアに乗せて、赤外レーザー同位体分光装置に導入する連続フローシステムを用いて測定した。破砕した石英試料は酸素同位体分析に供した。石英の酸素同位体比は、高周波誘導加熱により炭素と石英を反応させて生成した一酸化炭素の酸素同位体比を分析する高周波誘導加熱炭素還元法を用いて測定した。
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