研究実績の概要 |
ゆっくり地震と高速地震という2つの地震は、見かけには異なる地震であるが、やはり統一的に扱うべきであると考えるのが理論的側面からの自然な発想である。加えて、ゆっくり地震の繰り返しで高速地震に至ることはあるのか知見を与えることは社会的側面からも重要である。それはゆっくり地震から高速地震への「遷移」と表現できるであろう。更には、そもそも両地震が定性的に全く異なる地震であると考えることもまた現象間での「遷移」と言える。この遷移をシンプルなバネ・ブロック(Burridge-Knopoff, BK)モデルと熱・流体・空隙相互作用の下で解析した。
熱・流体・空隙相互作用について簡単に述べる。まず断層岩は空隙を多数含んだ多孔質媒質であるとし、空隙は液相(水)で満たされているとする。断層滑りの際に摩擦発熱が支配的だと媒質は膨張するが、固相と液相の膨張率の違いにより断層面上での流体圧p_fが上昇する。一方滑り時に滑り面近傍で空隙が生成する効果が支配的だとp_fは減少する。p_fが高い(低い)と有効法線応力の減少(増加)と滑り摩擦力の減少(増加)、そして滑りの加速(減速)を導く。
こういった効果を取り入れ、エネルギーバランスを表す、一回の地震の滑り量u_fの関数F(u_f)を見出したことが重要である。これは二重井戸型の形となりかつ原点を通る。またその極値はすべてu_f>0の領域にあるため、極大値が正(負)の時正の解が3つ(1つ)存在する。それらのうち物理的に実現されるのは最小のもののみであり、3つの時が小さい滑りすなわちゆっくり地震、1つの時が大きい滑りすなわち高速地震に対応する。両者の違いは極大値が正か負かによって決まるという一次相転移的に考えられることが明らかになった。加えて、次にどちらの地震が起こるのか、滑り開始時の流体圧と空隙率によって分類できることが明らかになったことにも言及しておく。
|