公募研究
自然界の地震断層は、すべり出すか出さないかといった臨界状態で静止している。このような断層の内部に存在する間隙流体の圧力の変動が、地震波を放出しないゆっくりとした変形から大きな揺れを伴う高速断層すべりに至る多様な地震断層すべりをうみ出す要因の1つであると考えられている。本研究では、回転式低~高速摩擦試験機に応力・水圧制御機構を導入して、自然界の地震断層の臨界状態を再現することを試みる。そして、その臨界状態で間隙水圧を上昇・変動させることによって断層すべりを自発的に発生させ、その時のすべり速度の変化を検出する実験研究を計画している。令和4年度(繰越申請にともなう4か月の延長時期を含む)は、高知コア研究所の流体圧制型低~高速摩擦試験機に試験的に導入している応力・水圧制御機構の性能確認実験を実施した。特に、静止している断層が地震時の秒速数メートルに加速するプロセスを追うために、7桁に及ぶすべり速度およびすべり変位量の連続的な変化を捉える計測機器の改良に焦点をあてた。この改良のために応力制御実験を行い、これまで使用してきた2種類の回転速度・変位を測定する機器を含む計3種類の機器を用いて、静止している断層がすべりはじめる際の挙動を捉えることを試みた。その結果、新たに導入した超精密電磁誘導式エンコーダーを用いることで、従来使用してきた回転計測機器よりも回転角度の分解能が一桁以上改善し、すべりがはじまるタイミングを明確に捉えることが可能となった。
3: やや遅れている
令和4年度は、本研究の主要な目的であるスロー地震の断層すべり運動を実験室で自発的に発生させ、そのすべり挙動を捉えるために必要不可欠な回転速度・変位計測機器の改良に取り組んだ。この計測機器の改良のために、粒径約100μmの石英砂を模擬断層ガウジ試料として応力(トルク)制御実験をおこなった。当初の想定に反し、世界的なテフロン材料の供給不足により、摩擦実験に必要なテフロン部材の納品が遅れたが、4ヶ月遅れで予定していた下記の実験を実施することができた。実験では垂直応力2MPaの条件下で、トルクを秒速0.25Nmの載荷速度で上昇させて、試料がすべり出す際のすべり変位量の測定を、まずこれまで使用してきた回転エンコーダーとポテンショメーターで計測を行った。その結果、回転エンコーダーでは変位量がステップ状に現れること、ポテンショメーターでは電気ノイズに変位シグナルが埋もれ、模擬断層試料のすべり出しの挙動を正確に捉えることが難しいことが明らかとなった。この問題を解決するために、模擬断層試料を挟むように超精密電磁誘導式エンコーダーを予察的に導入して同様の実験をおこなった。その結果、すべり量の元データとなる回転角度の分解能が一桁以上改善し、3x10^-5radオーダーの回転角度を測定することが可能となり、すべりはじめるタイミングを明確に捉えることが可能となった。
臨界状態で静止した断層が動き出す際の挙動を、新たに導入した回転速度・変位計測機器で捉えることができるようになった。次年度は応力・水圧制御機構を用いた予察的な実験をおこない、本研究の目標である「プレート境界断層帯の間隙流体圧が変動することでスロー地震が誘発される」という仮説の検証をおこなう。さらに、本研究によって応力・水圧制御機構を構築することができた際は、同様の機構を地震発生域の熱水環境を再現できる熱水低~高速摩擦試験機にも導入することを検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件)
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