研究領域 | デジタル化による高度精密有機合成の新展開 |
研究課題/領域番号 |
22H05364
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大洞 光司 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10631202)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 人工酵素 / 触媒 / 物質変換 |
研究実績の概要 |
持続可能社会の実現に向けて、環境調和型かつ貴金属を含まない触媒を用いた物資変換反応が注目されている。この条件は酵素と類似しているが、その一方で天然酵素の多くは基質適用範囲が狭く、有機合成への利用は限られている。本研究では、自在物質変換反応の実現をめざして、高活性な金属錯体とタンパク質マトリクスを組み合わせ、高活性かつ高選択的を達成する人工金属酵素の開発およびその設計法の確立を目的としている。研究開始1年目の本年度は金属錯体とタンパク質マトリクスの探索を実施した。タンパク質マトリクスとしてヘムタンパク質を選択し、ミオグロビンや好熱菌由来グロビン、シトクロムP450を選択した。金属錯体はヘムの配位子であるポルフィリンの類縁体、ポルフィセン、コロール、テトラデヒドロコリンを選択し、これらの鉄、マンガン、コバルト錯体を調製し、C-H結合の官能基化反応に利用した。その結果、ミオグロビンと好熱菌由来グロビンにそれぞれマンガンポルフィセンを挿入した人工金属酵素においてC-H結合の水酸化に活性を示すことが明らかになった。水酸化反応の中間体として予想される高原子価オキソ種を分光学的に観測し、反応機構を推察した。反応機構を基盤に、計算科学を利用した手法でさらなるタンパク質マトリクスの最適化を行なったところ、活性と選択性をそれぞれ数倍まで向上させることができた。またミオグロビンとシトクロムP450にそれぞれ鉄ポルフィセンを挿入した人工金属酵素はC-H結合のアミノ化こ有効であることを明らかにした。タンパク質の最適化を行い、より活性、選択性の高い酵素の開発に取り組む。これらの成果は学会等で発表を行ない、高い評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、生体内でC-H結合水酸化反応を触媒する天然金属酵素(シトクロムP450)の反応性を参考に、C-H結合官能基化反応に触媒能を示す鉄 、マンガン等の人工ポルフィリノイド錯体とタンパク質マトリクスを組み合わせた人工金属酵素の合理的設計法の確立に向けて取り組んだ。本年度は初年度であるので、まず複数の人工ポルフィリノイド金属錯体として、マンガンポルフィセン錯体、鉄ポルフィセン錯体、鉄コロール錯体、コバルトコ ロール錯体、コバルトテトラデヒドロコリン錯体を合成し、複数のタンパク質マトリクス(ミオグロビンや好熱菌由来グロビン、シトクロムP450)の調製を行い、それらを組み合わせ、人工金属酵素 のライブラリーを作成した。得られる人工金属酵素は吸収スペクトルや質量分析、結晶構造解析により同定した。その結果、ミオグロビンと好熱菌由来グロビンにそれぞれマンガンポルフィセン錯体を挿入した人工金属酵素においてエチルベンゼンやアルカンの水酸化に活性を示すことが明らかになった。水酸化反応の中間体として予想される高原子価オキソ種をストップトフロー法を用いた過渡吸収スペクトル測定により観測し、反応機構を推察した。反応機構を基盤に、分子動力学計算を利用した手法でさらなるタンパク質マトリクスの最適化を行なったところ、活性と選択性をそれぞれ数倍まで向上させることができた。またミオグロビンとシトクロムP450にそれぞれ鉄ポルフィセンを挿入した人工金属酵素はC-H結合のアミノ化こ有効であることを明らかにした。タンパク質の最適化を行い、より活性、選択性の高い酵素の開発に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も引き続き人工金属酵素の高活性化と高選択性の発現を目的として、研究を進める。本年度明らかにしたミオグロビンおよび好熱菌由来グロビンにマンガンポルフィセン錯体を挿入した人工金属酵素について、さらなる最適化を実施するとともに、評価を行う。具体的には、引き続き反応機構に基づく変異体設計を実施し、実際に活性を評価し、その精度を向上させる。また構造的な情報を得るために結晶構造解析にも挑戦する。また機械学習を用いた有力な変異体の設計にも取り組む。C-Hアミノ化に活性を示す人工金属酵素についても有力な変異体の設計手法の確立をめざす。特にシトクロムP450についは、ミオグロビンと異なり、ヘムを含まないアポタンパク質として得ることができるので、ハイスループットスクリーニングに適している。機械学習には複数の変異体データセットが必要になるので、シトクロムP450と鉄ポルフィセンを組み合わせた系は特に適していると考えられる。数十の変異体で教育データを取得し、数十万の変異体から最適な変異体を予測するような系を組み上げ、提案された変異体を実際に調製し、活性を評価する。単純な活性以外にも選択性や安定性などのパラメータも取り入れ、何が重要な因子になりうるのかを明らかにし、より汎用性の高い予測システムに展開したい。 昨年度構築した人工金属酵素ライブラリーを用いて、他のC-H結合官能基化反応の探索も実施する。特に金属カルベノイドを中間体とするC-C結合形成について検討する。反応の進行が見られない場合、オレフィンのシクロプロパン化などで予備的な評価を実施する。 得られた成果は学会や学術論文にて発表を積極的に実施する。
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