研究領域 | デジタル化による高度精密有機合成の新展開 |
研究課題/領域番号 |
22H05366
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐古 真 大阪大学, 大学院薬学研究科, 助教 (20804090)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 機械学習 / 溶媒効果 / 有機分子触媒 / 収率予測 / 記述子 / 極性転換 |
研究実績の概要 |
有機合成反応開発において「溶媒」は、収率や選択性を左右する重要な因子であるものの、多くの場合、実験者の経験や試行錯誤により選別される。その溶媒効果について、機械学習を活用する実験データの回帰分析やデータ予測に基づいて定量的に説明できれば、化学反応の本質を理解でき学理の深化に繋がる。今年度、有機分子触媒を用いるアルキン酸エステルの極性転換型反応の開発において、溶媒効果に対する機会学習の適用を検証した。 具体的には、Lewis塩基触媒としてトリフェニルホスフィン(PPh3)の存在下、アルキン酸エステルとケトエステルの反応において、用いる溶媒の違いで極性転換型のα付加体が高い選択性で得られることを見出した。本結果について機械学習による理解を深めるために、記述子の選定と学習データの収集を行った。一般有機溶媒からWard法を用いるクラスタリングにより8-10種類の溶媒を選択して学習データを収集した。各種回帰手法を用いてα-付加体の収率予測モデルを構築した。Leave-one-out cross validation(LOOCV)により算出したr2値を比較したところ、特に部分的最小二乗(PLS)回帰(成分数1)の場合に良好な結果が得られた。また、未実施溶媒の収率予測においても、PLS回帰(成分数2)が比較的良好な予測精度を示した。機械学習を適用することで、低収率(20~40%)の学習データから、高い収率(>40%)を与える溶媒を予想できる結果となった。 一方で、シクロヘキサンや四塩化炭素が高い収率を与えると予測したものの、実際の実験ではいずれも低収率となった。そこで、シクロヘキサンとp-キシレンの混合溶媒を用いたところ、目的化合物が69%で得られ、検討した溶媒の中では最も良い結果となった。適切なモデル構築ができれば、従来の実験からは予測困難な混合溶媒系での収率予測も可能と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた溶媒効果検証における回帰モデル構築で良好な結果が得られ、汎化性能や混合溶媒系の提案などに関する知見が得られた。また、領域内の研究者との情報交換により、多様なアルゴリズムの活用を実施することが出来た。現在のところ、溶媒効果に対する機械学習の利活用に関する研究は研究計画書通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
溶媒効果に関する機械学習により溶媒の支配因子が可視化されれば、反応機構の究明にも積極的に取り入れることができると予想される。DFT計算等による研究と組み合わせることで複数の視点からより本質的な理解へと繋がる。また、予備的な実験から、本反応には酸の添加が効果的であることが分かっている。そこで、酸添加剤の学習データも収集し、機械学習による収率予測について検証する。
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