有機合成反応開発において「溶媒」は、収率や選択性を左右する重要な因子であるものの、多くの場合、実験者の経験や試行錯誤により選別される。その溶媒効果について、機械学習を活用する実験データの回帰分析やデータ予測に基づいて定量的に説明できれば、化学反応の本質を理解でき学理の深化に繋がる。本研究では、トリフェニルホスフィン触媒を用いるアルキン酸エステルの極性転換型反応の開発において、溶媒効果に対する機会学習の適用を検証している。昨年度、α-付加体の収率に対して部分最小自乗(PLS)回帰(成分数2)を用いた場合、比較的良好な回帰結果が得られることを見出した。今年度、β-付加体の収率に対する回帰分析の検証と生成物の収率向上を目的に添加剤の検討を行った。その結果、α-付加体の収率の予測モデルの記述子セットを用い、β-付加体の収率についても各種回帰法を用いて予測モデルを構築したところ、PLS回帰(成分数1)の場合に良好な回帰結果が得られ、Leave-one-out cross validation(LOOCV)により算出したr2値は0.91と高い値を示した。同じ記述子セットを用いて両異性体について良好な回帰結果が得られたことから、本反応の位置選択性と今回選択した溶媒の化学的特徴を表す記述子との強い相関関係が定量的に示された。更なるα-付加体の収率向上を目指し、DFT法による遷移状態の解析により反応機構の考察を行ったところ、本反応の律速段階はプロトン移動であると示唆された。そこで酸添加剤の検討を行った結果、トルエン溶媒中で10 mol%の酢酸を添加し、α-付加体が定量的に得られることを見出した。
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